本会議 一般質問  二〇〇六年三月一日

たぞえ民夫(世田谷区選出)

二十四時間三百六十五日、軽症から重症まで、検査も入院もできる小児救急病院を身近な所に

がん対策 患者さんの痛みや苦しみを軽減し、人間らしい生活ができるよう支援を

小児医療は危機的状況

 はじめに、小児医療の拡充について伺います。
 全国的に小児医療は危機的な状況にあり、東京も例外ではありません。診療報酬が低く不採算のため、小児科を縮小、閉鎖する病院が相次いでいます。東京で小児科がある病院は、九八年からの五年間で、四十九カ所、二割も減りました。
 一方、子どもの救急患者はふえており、小児科医は多忙をきわめ、朝から晩まで診療の後、当直とは名ばかりの救急患者への対応で一睡もできないまま翌日も働く連続三十二時間労働が常態化し、もう限界との声が上がっています。
 こうした過酷な実態のため、小児科医のなり手が減る悪循環が続いています。新卒医師に臨床研修が義務づけられましたが、現場の深刻さを体験し、逆に小児科希望者が激減する事態を招いています。
 まず、このような小児救急の危機的な現状に対する知事の認識を伺います。
 私の地元、人口八十万の世田谷では、内科、外科の夜間・休日救急は十七病院が実施していますが、小児科は、都立母子保健院が廃止された後、国立成育医療センターただ一つになりました。毎晩百人近い子どもが急病などで来院して、混雑しているときは一時間も二時間も待たされる状況で、いつでも駆け込める病院をふやしてほしいという声が広がっています。
 子どもの病状は急変しやすいため、二十四時間三百六十五日小児科医がいて、軽症から重症まで受け入れ、検査も入院もできる小児救急センターが身近なところに必要です。ところが、世田谷、杉並や江東区など区東部地域、西多摩を初め、小児救急医療体制の不足地域が少なくありません。都は、二次医療圏で見ると充足しているといいますが、全国の二十一府県は、二次医療圏とは別に小児救急医療圏を設定し、実態に合わせた整備を進めているのです。
 二次医療圏にこだわることなく、不足している地域に、二十四時間三百六十五日対応できる小児救急病院を整備することを検討していただきたい。
 また、国が制度化を予定している医療対策協議会を都として立ち上げ、現場の医療機関、小児科医、都民及び区市町村が知恵を出し合って、小児医療の危機的状況の打開策を検討し、協力し合える体制をつくることを提案するものですが、見解を伺います。
 医師の確保も大事です。都は、離職小児科医再就職支援事業を行っていますが、実績はわずか二人です。国が行った医療報酬の改善もささやかなものにすぎません。深刻な小児科医不足の打開に向け、女性医師の働く条件の改善に取り組む医療機関への支援、小児科医育成奨学金の創設など、今までにない対策に踏み出すときではないでしょうか。
 また、都立病院の小児科医の労働時間短縮も重要だと思いますが、見解を伺います。

小児精神医療の専門病院・梅ヶ丘病院は存続を

次に、梅ケ丘病院についてです。
 小児精神科の専門病院は全国で二カ所しかなく、その中でも、創立六十年を超え、最大規模の都立梅ケ丘病院は、初代院長は歌人の斎藤茂吉氏という、歴史も古く、名実とも日本を代表する病院です。
 外来患者は年間四万人、子どもの自閉症や統合失調症など、症状の重い人が少なくありませんが、長い歴史の中で、まち全体が温かく患者を受け入れてくれる雰囲気がつくられています。患者の母親は、入院しても、隔離でなく、緑多い公園や町に外出し、院内学級もあって、安心して入院生活を送れていますと語っていました。入院しても気軽に外出でき、周囲の理解が何よりも回復の手助けになっていると、患者家族から、ぜひこの地に残してほしいという切実な声が上がっています。
 梅ケ丘病院を中心にして、区の総合福祉センター、福祉作業所など、福祉のまちが形成されています。病院自身の環境も、駅から歩いて五分という便利な町の中にあり、広い敷地に二階建ての落ちついた病棟、グラウンド、プールなど、いやしの環境が整っています。また、幼児や思春期専門の通所リハビリは、周辺地域に住む人が多く利用しています。
 病院は、医療人材、敷地・建物、周辺地域の環境の三つがそろってこそ、よい医療が行えます。小児精神科専門病院である梅ケ丘病院にとって、病院自身の便利で落ちついた環境、そしてその周辺地域との温かい関係が何よりも大事だと思いますが、見解を伺います。
 東京都は、梅ケ丘病院のほかに八王子、清瀬小児病院、府中病院の四つを一つにまとめて高層建築の病院をつくるといっています。しかし、九七年五月の都立病院小児医療検討委員会最終報告では、梅ケ丘病院について、小児精神医療の特性や、ますます高度専門化する医療の動向を踏まえ、良好な治療環境や的確な治療体制を確保するために、成人を対象とする精神病院や小児病院とは組織的にも物理的にも独立していることが望ましいと明記していました。伺いますが、この内容は間違っていたのですか、どうですか。
 今、子どもたちの心の問題が大きな社会問題になる一方、小児精神科の病院は余りにも少ないのが実態です。小児精神医療機関をふやすことこそ必要です。府中につくるからといって、梅ケ丘病院を廃止する理由にはなりません。現在地で存続することを強く要望するものです。
 あわせて、都は、患者家族会とこれまで二度の話し合いを行っていますが、これを継続させることを求めておきます。

患者・家族の不安と痛みを減らすがん対策を

 次に、がん対策について伺います。
 がんは、全国的にも東京においても死因の第一位で、男性の二人に一人、女性の三人に一人はがんにかかる状況となっています。国は、三次にわたるがん戦略を策定し、推進していますが、その取り組みは欧米諸国に比べて立ちおくれており、大きな社会問題になっています。多くの人ががんになることを恐れ、患者さんは残された時間と向き合い、抗がん剤の副作用や病状の進行に伴う痛みと闘っています。
 都民の命と健康を守り、患者、家族の皆さんの不安と痛みを減らしていくために、がん対策は極めて重要な課題だと思いますが、知事の認識を伺います。
 予防、検診、医療体制の充実、在宅療養に対する支援や相談窓口の整備、がん発症率などのデータの把握など、がん対策の総合計画を都としてつくることが必要ではありませんか。答弁を求めます。
 さまざまな課題がありますが、特に急がれるのは、患者さんの痛みや苦しみを軽減し、人間らしい生活ができるようにするための支援です。例えば広島県は、県立病院に緩和ケア支援センターを整備し、総合相談、デイホスピス、すなわち、在宅療養のがん患者さんが通うデイサービス、人材育成などを実施しています。痛みを減らす緩和ケアは、末期になってからでなく、がんと告知された直後から始まるという考え方が徹底されています。
 デイホスピスでは、がん患者同士の交流を通して、悩みに共感したり、生きる意欲を引き出すなどの取り組みがされています。利用された方から、激しい痛みに不安が募っていました、でも、デイホスピスに来て笑顔をもらいましたなどの声が寄せられています。
 人材育成は、医師を県外の先進的な病院に派遣するコース、看護師対象に実践研修を行う専門コース、福祉関係者のコースなど、県の役割として重視しており、緩和ケアの担い手を育てています。
 都は、ターミナルケア従事者研修を行っていますが、年に数回、その都度受講者がかわるというもので、充実が必要ではないでしょうか。医師、看護師、福祉関係者に対して、緩和ケアの系統的な人材育成に踏み出すことを提案するものですが、見解を伺います。
 在宅で療養しているがん患者に対する訪問看護や訪問診療、ヘルパー派遣、デイホスピスなどの支援システムをつくることも切実な課題であり、ぜひ検討してください。
 また、都立駒込病院に新たに緩和ケア病床を整備する計画ですが、広島県が取り組んでいるような緩和ケア支援センターを駒込病院にもぜひ整備していただきたい。見解を伺います。
 最後に、医療体制の整備です。
 国は、地域におけるがん拠点病院の機能強化と同時に、それを広域的に支援する都道府県がん診療連携拠点病院を都道府県に一カ所ずつ整備する方針を打ち出しました。都立駒込病院でも実施することを提案するものです。
 答弁を求め、質問を終わります。

【答弁】

〇知事(石原慎太郎君) たぞえ民夫議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、小児医療についてでありますが、次代を担う子どもたちを心身ともに健全に育成することは、親はもとより、我々大人に課せられた責務であります。
 子どもの健康を守り、子どもを持つすべての家庭が安心して子育てをしていくためには、小児医療の充実が重要な課題であると認識しております。
 都はこれまでも、夜間における相談体制の充実や、常時、小児科医師が診察に当たる救急医療体制の整備など、都全体の小児医療水準の向上に努めてまいりました。
 今後とも、小児医療の充実に積極的に取り組み、子どもが健やかに成長し、未来に希望の持てる社会を東京に実現していきたいと思っております。
 次いで、がん対策についてでありますが、人間はいずれ死ぬ存在でありますけれども、がんは、無情にも、また非常に多くの人の生命を奪うものでありまして、現代社会を生きる我々の健康を脅かす重大な脅威であります。この病気の克服は、人類の積年の願いであります。革新的な予防、診断、治療法の開発をだれもが切望しておりまして、国を挙げて取り組むべき課題であると思います。
 既に都は、予防から早期発見、早期治療、患者の生活の質を向上させるケアに至る、病態を通じたがん対策に取り組んでおります。
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。

〇福祉保健局長(平井健一君) 医療について七点のご質問にお答えいたします。
 まず、小児救急医療体制についてでございますが、都は、急病の子どもが地域で症状に応じた適切な医療を受けることができますように、入院を必要としない軽症患者に対応する初期救急は区市町村、入院を必要とする中等症や重症の患者に対応する二次救急は東京都という役割分担のもとに、体系的な整備を進めてまいりました。
 この中で、二十四時間三百六十五日、常時、小児科医師が救急患者に対応する二次救急体制につきましては、二次保健医療圏を単位として、五十二病院が確保されているところでございます。
 次に、医療対策協議会による小児医療の確保についてでございますが、今、国会に提出されております医療法改正法案に基づく医療対策協議会は、救急医療の医療従事者確保などに関して、都道府県と大学病院、地域中核病院等が協議する場として制度化されるものでございます。
 都におきましては、これまでも、区市町村、東京都医師会、地域中核病院、大学病院等が連携協力して小児科医の確保に努め、初期から三次に至る小児救急医療事業などを実施してまいりました。
 なお、医師の養成確保は本来国の責務であり、医師の地域偏在、診療科偏在の解消などは、地域における独自の取り組みでは限界がありますことから、全国知事会と協働し、国において実効性のある抜本的な対策に取り組むよう要請を行っております。
 次に、小児科医師確保のための方策についてでございます。
 地域における小児科医療基盤を確保するため、都は、現在、内科医などの開業医に対する小児医療研修や、離職した小児科医師の再就職支援などの独自の取り組みを進めております。
 また、国に対して、小児科医の養成確保策の充実や、小児医療における診療報酬制度の抜本的改善を提案要求してまいりました。
 こうした中、平成十八年度の診療報酬改定では、深夜の診療加算額が引き上げられるなど、改善が図られることとなりました。
 次に、がん対策の総合計画についてでございます。
 都は、保健医療分野全体にわたる基本計画でございます東京都保健医療計画及び都民の健康づくりを総合的に推進するための指針でございます健康推進プラン21におきまして、がん対策に関する施策の方針を定めているところでございます。
 具体的には、がん検診の充実や喫煙による健康影響防止などの予防対策、緩和ケア病棟や地域がん診療拠点病院の整備とその人材育成などの医療対策を計画に位置づけ、総合的な推進に努めております。
 次に、緩和ケアに関する人材育成についてでございますが、都はこれまでも、病院の医師、看護師や、診療所の医師、ボランティアなど対象者別に、痛みの管理でございますが疼痛管理や、精神的ケアに関する最新の知識の普及を図るため、講習会を独自に行ってまいりました。
 また、緩和ケアの導入に積極的に取り組もうとなさっております病院の医師、看護師等を対象に、緩和ケア病棟への派遣研修を実施するなど、さまざまな人材育成の取り組みを行っております。
 次に、在宅療養中のがん患者に対する支援についてでございますが、在宅ターミナルケアの充実に向け、平成十八年度の介護保険法改正や診療報酬改定におきまして、六十五歳未満の末期がん患者に対する介護保険の適用や、在宅療養支援療養所に対する診療報酬の新設など、在宅療養を支える基盤の整備が盛り込まれました。
 これらの制度改正により、がん患者に対する在宅療養の基盤整備が進むものと考えております。
 最後に、がん診療の拠点病院についてでございますが、現在、都内では、都立の駒込病院を初めとしまして、十カ所の地域がん診療拠点病院が指定されております。国は、十八年度からその指定要件を見直すこととしており、現在の拠点病院は、今後二年間の経過期間内に新たな制度への移行準備に取り組むこととなります。
 なお、今回の見直しにより、地域の拠点病院を支援するものとして創設されます都道府県がん診療連携拠点病院の指定につきましては、こうした地域の拠点病院の移行状況も踏まえ、行われるものと考えております。

〇病院経営本部長(大塚孝一君) 都立病院にかかわる四点のご質問にお答えいたします。
 まず、都立病院における小児科医師の勤務環境についてでございますが、臨床研修システムの充実等により、小児科医の育成確保に取り組むなど、今後とも働きやすい環境づくりに努めてまいります。
 次に、小児精神医療に必要な環境についてでございますが、新たに整備する小児総合医療センターでは、高度専門的な医療を提供する小児専門病院として、医療内容の充実を図ることはもちろん、周辺の恵まれた自然環境を生かすとともに、地域のご理解もいただいて、子どもにとって、より一層快適な療養環境を提供することを目指してまいります。
 続いて、梅ケ丘病院整備の考え方についてでございますが、近年、心の病を持つ小児患者が増加するとともに、小児科領域における医療が多様化するなど、小児精神医療を取り巻く環境は大きく変化しております。このため、こころとからだを総合した高度専門的な医療を提供することがこれまで以上に重要となっており、平成十三年の都立病院改革会議報告を受けて、新たに三つの小児病院を統合し、小児総合医療センターとして整備することにしたものでございます。
 最後に、駒込病院の整備に伴う緩和ケア医療についてでございますが、昨年十一月に策定したがん・感染症医療センター整備計画におきましては、緩和ケア医療を重点医療課題としております。
 施設の改修に当たりましては、患者の療養環境に配慮した専門病棟を整備することにしており、緩和ケアの推進に努めております。

以上