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文書質問趣意書 がん対策と都立駒込病院の拡充について
小竹ひろ子(文京区選出)
わが国の死亡原因の第一位を占めているがんは、早期発見から終末期のターミナルケアにいたる一貫した体制の整備が必要であると考えます。
私の所に最近相談に来られたAさんは、2002年末に都立大塚病院に入院、翌年手術
腹膜のがんが摘出できずに手術を終わり、その後腸閉塞や後遺症で駒込病院に転院し治療を受け退院、その後入退院を繰り返し駒込病院で抗がん剤治療を行ってきました。そのため最近では副作用も強くなり、他の病気を併発、黄疸、胆管閉塞を起こし、手術し管を入れて点滴をしている状態で、即退院と言われたとの事です。
看護に当たっているAさんの夫は「ここまでなる前に抗がん剤の副作用がひどくなったとき、医師からどうするかと聞かれ自分は中止して様子を見てほしいと言ったが、本人は治療をやめる不安から治療の継続を願い、治療をつづけたため、副作用が一層強まった。患者を色々な分野から総合的に診てアドバイスする体制にならないか」と訴えられていました。
老夫婦二人のため看護の困難から入院の継続を求めましたが、治療の方法がないこと、ベットはもう次が決まっているとのことで退院せざるをえなくなったとのことです。
緩和ケア病床として、聖路加と都立豊島病院を紹介され、家族が電話したところ、聖路加病院は5万円といわれ、とても払えないと思ったとのことです。もう一方の豊島病院も「1万6千円の部屋代を払うなら、2週間先に診察予約を入れます」といわれ、入院までの間なにかあったらと不安だったそうです。差額ベット代は年金生活では厳しいけれど、体には変えられないので豊島病院を選んだそうです。豊島病院も医療費1割負担と食費を合わせると一日2万円をこすので負担は大変だと訴えています。
このようなケースはほかにも数多くあります。
一人の患者を総合的に見てどういう治療をするのか、特に抗がん剤等の副作用がある場合どうするのがベーターなのか、患者の副作用が少ない治療はどうあるべきか等、集団で検討するチーム医療が求められているのではないでしょうか。
Q1 駒込病院で、手術による外科治療、抗がん剤による治療、放射線治療などの集学的がん医療を推進すると同時に、全人的医療をめざした医師、看護師、臨床心理士、理学・作業・言語などの療法士(セラピスト)、医療ソーシャルワーカーなどによるチーム医療体制を充実する必要があると思いますが、見解を伺います。
Q2 抗がん剤の効果的に組み合わせて使用することや、副作用を抑えることは、患者の治療を促進するとともに、QOL(生活の質)を高める上で重要です。都として、抗がん剤治療の専門医を育成し、駒込病院をはじめとした都立病院や公社病院に配置していくことを提案するものです。答弁を求めます。
Q3 カテーテル挿入をはじめ医療機器を装着したような状態での退院は、患者・家族にとっては大きな不安、負担となります。平均在院日数短縮の経営指標を最優先にして早期退院をすすめるのでなく、患者・家族ひとり一人の実態に応じて、きめ細かい対応を行う必要があると思いますが、いかがですか。
Q4 Aさんのように医療的処置を必要としながら、在宅に戻らなければならない場合、地域の医療機関との連携や訪問看護ステーション・介護事業所などとの連携による治療・処置の継続が求められています。こうした関係づくりをすすめる地域連携室のようなセクションが駒込病院に必要だと考えますがどうか伺います。
Q5 がん患者には、診断・治療、医療者との関係、副作用や後遺症、再発や転移、病状悪化への不安など心の問題、生き方・生きがい、経済的負担、就労、家族との関係をはじめ、さまざまな相談支援が必要です。静岡県立静岡がんセンターは、こうした要望にこたえるため、「よろず相談」窓口を開設しています。この相談窓口は、専任の医療ソーシャルワーカー、看護師が配置されており、対面・電話、さらには出張による相談を行い、歓迎されています。駒込病院においても、患者・家族に対する相談支援体制を充実・強化することが求められていると思いますが、見解を伺います。
豊島病院の緩和ケア病棟は大きな役割を果たしています。しかし、20床しかないうち10床は有料で、1万6千円の部屋代に治療費等合わせると最低でも2万円を越します。
緩和ケアは診療報酬でも治療の性格から高い点数が認められています。静岡県立がんセンターは50床の緩和ケア病棟すべてを部屋代無料にするとしています。
Q6 駒込病院に整備する緩和ケア病棟は、長期にわたる治療を要するがん患者の負担を減らすために、差額ベット料なしの無料の病床をできる限り増やしていただきたいと思いますがどうですか。
Q7 民間病院もふくめ、東京におけるホスピス・緩和ケア病棟(病床)の増設が必要です。お答え下さい。
私は広島県立病院の緩和ケア支援センターを視察してきました。ここには大きく二つの
部門があり、一つは緩和ケア科を中心とした診療部門で、20床の緩和ケア病棟の運用と外来診療を通じ、地域との連携で緩和ケアを進めています。もう一つは緩和ケア支援室の部門です。この部門は在宅の緩和ケアを全県的に広げていくための拠点として、情報の収集・提供、総合相談、専門研修及び「デイホスピス・モデル事業」の地域連携支援事業を行っています。
緩和ケアに関する国内外の情報を集め県内に発信、提供するとともに、相談事業では患者・家族はもちろんのこと医療機関等からの相談にも応えられる体制を敷いています。医師や看護師・福祉関係者等の専門研修で養成し、県内どこでも緩和ケアが受けられるようにする事業を計画的にやっています。
地域連携事業では、デイホスピスと共に緩和ケアを推進している団体に専任スタッフによるアドバイザー派遣をするなど、いつでもどこでも誰もが緩和ケアサービスが受けられる「地域における緩和ケア・ネットワークづくり」を目的に活動しています。
私が、特に驚いたのはデイホスピスです。在宅医療をしているがん患者にとってデイホスピスは生きる支えになっており、デイホスピスに参加することで、専門家から定期的にアドバイスやマッサージなどを受け不安や苦痛をやわらげ、できるだけ長く在宅医療できる支援がなされていることを知りました。家に引きこもっていた患者がデイホスピスに参加して、自分一人でなかったと同じ仲間と経験を交流、専門家のアドバイスを受けたりする中で楽しみながら、自分の身体的機能を維持し、生きる力を得て生命を全うされています。身体的苦痛をなくすためのリンパマッサージなどの看護セラピーや音楽療法、趣味など、その人に合ったコントロールとケアがなされています。これらは看護師を中心に多くの講習を受けたボランティアの協力の下で行われています。また看護師は来所する患者・家族のサポートのみでなく、地域の看護職へのサポートやアドバイスもされ、地域との連携の核になっています。
がんと宣告された患者の不安、痛みを和らげるための地域の体制は欠かせません。いく
ら緩和ケア病棟をつくっても全ての人をサポートすることはできません。地域で支える体
制を全県的に作る役割を果たしている広島県の経験は学ぶべきと考えます。
Q8 在宅がん患者にとって、患者同士で交流し、励ましあいつつ、リンパマッサージやリラクゼーションなどの看護セラピー、音楽療法・レクレーションなどのクリエイティブセラピーをおこなうデイホスピスは、生きる意欲、QOLを高めるうえで大事なものだと思いますが、その効果、役割の重要性について、都の認識を伺います。
Q9 また、地域で支える緩和ケア体制のモデル事業として、駒込病院の緩和ケア病棟といっしょにデイホスピスを併設するよう提案するものですが、いかがですか。答弁を求めます。
これまでホスピスや緩和ケアは、終末期医療に焦点を当てたケアとして、位置づけられてきました。しかし現在では、がんと診断された時から必要とされ、早期から適応できるケアであるとの認識が広まっています。
広島県立病院の緩和ケア支援センターでも、緩和ケアは末期になってからでなく、がんと告知された直後から始まるという考え方が徹底されていました。
Q10 緩和ケアは、末期になってからでなく、がんと診断された直後から始まるという、WHOも認めている最新の知見を、民間も含めた緩和ケア施設など医療機関、医師、看護師をはじめとした医療・福祉関係者に普及することが重要です。都の認識を伺いがいます。
都は、駒込病院を、「がん・感染症センター」として整備していく計画です。高度専門医療を充実することは重要ですが、センター化にともない、どの診療科もがん患者に限定していくという方向がつよまるなら、自治体病院のあり方を、ゆがめるものと言わねばなりません。
全国知事対病院協議会は、自治体病院は、「住民の意向に沿って運営がおこなわれるべきもので、一律に政策医療のみをおこなう等医療の範囲を限定することは適当ではない」、「高度・特殊・先駆的医療その他政策的医療は、一般医療が整っていてこそ成り立つものであり、地域住民のほとんどが一般医療の実施を強く望んでいるのである」と述べています(全国自体病院協議会定時総会、2000年5月)。
Q11 都立駒込病院は、その総合的診療基盤を活用して、今後も幅広い地域医療の要求にこたえる必要があると考えますが、答弁を求めます。
Q12 駒込病院の感染症医療は、いまはHIV(エイズ)などが中心ですが、今後、非常に感染力がつよく、危険性の高い第一種指定の感染症もふくめた対応を駒込病院でおこなう計画です。体力・免疫力が低下したがん患者やHIV感染患者の多い病院に、第一種感染症病棟を併設することの是非について、どのように検討したのか、お答え下さい。
駒込病院の改築とその後の運営を、民間企業主導のPFI方式でおこなうとしていることも、大きな問題があります。
民間企業に銀行からお金を借りてもらって、その資金で駒込病院を改築する。利益の追及を使命とする民間企業がただで借金をするはずがないから、医師、看護師の業務以外はほとんどすべて、患者の給食やベッドメイク、清掃、医療事務などたくさんの業務がありますが、同じ企業にまかせて収益をあげる仕組みをつくる、というものです。
私は、こういうやり方は、都立病院の営利化につながるものだと思います。
財界団体の日本産業プロジェクト協議会(JAPIC)は、自治体病院のPFIについて、「大きなビジネスチャンス」だと位置づけて研究会をつくり、報告書をまとめています。そのなかでは、病院は大きな収益を生む事業ではないし、医療制度の変更などリスクが大きいことを指摘し、PFIを引き受けた企業が病院経営に関する意思決定に関与できる仕組みを導入すること、民間企業にたいするインセンティブを提供する必要があるとしています。
実際に、駒込病院より先に進んでいる、府中の小児総合医療センターのPFIでは、民間企業が、経営委員会や医事委員会への出席および資料の提供、必要に応じた病院の運営に関する会議への出席等を認める方向です。また、経営支援報酬として、病院経営支援業務の対価との位置づけで、委託費の固定費分に加えて病院全体収支の一定割合をインセンティブとして加算するとされています。
Q13 駒込病院の改築・運営を、民間企業主導のPFI方式でおこなうことはやめ、患者と家族、職員、関係医療機関・医療関係者の意見をはばひろく聞いて、都民共有の財産である都立駒込病院の拡充をすすめるべきです。答弁を求め、質問を終わります。
回答
回答1
駒込病院では、外科医、内科医、放射線科医などが一同に集まり、1つの症例に対する最適な治療法を選択する「キャンサーボード」という取組を行っています。
また、医師に加えて、がん看護専門看護師や臨床心理士、MSW(メディカルソーシャルワーカー)なども参加して全人的な医療の提供にも努めています。
回答2
都立病院では、各種専門医の育成や資格取得を支援しており、今後とも、各分野における専門医の育成を図っていきます。
回答3
駒込病院では、これまでも医師や看護師のほか、MSW(メディカノレソーシャノレワーカー)など多くの職種が相互に連携し、患者の疾病や病状に応じたきめ細かな治療を行ってきました。今後も、適切な医療を提供していきます。
回答4
駒込病院では、既に「医療連携室」を設置しており、地域の医療機関や訪問看護ステーションなどと連携を行うことで、外来から入院、在宅に至る継続性のある医療を提供しています。
回答5
駒込病院では、現在、医療相談係、看護相談室等が連携をとりながら、患者・家族との様々な相談に応じています。
さらに、平成18年2月には、「医療情報・相談室」を新たに設置し、患者・家族に対する相談支援体制を充実・強化しています。
回答6
緩和ケア病棟の整備については、診療報酬上の施設基準により、有料個室は5割以下とされています。
「がん・感染症医療センター」に整備する緩和ケア病棟の運営方法については、今後検討していきます。
回答7
都は、平成5年度から緩和ケア病棟の整備を行う民間病院に対して、独自に整備費の補助を実施しています。
平成17年度末現在の都内における緩和ケア病棟整備状況は、17施設331床となっています。
回答8
在宅のがん患者が、生活の質を向上させ、心豊かに生活を送ることができるようにするためには、在宅療養を支える基盤整備が大切です。平成18年度の介護保険制度改正や診療報酬改定においても、65歳未満の末期がん患者に対する介護保険の適用拡大、医療機関や訪間看護ステーションと連携して行う通所サービスや在宅療養支援診療所の創設など、制度の充実が図られています。
都としては、在宅患者を支援する要となる人材育成のため、診療所の医師や訪問看護ステーションの看護師に対する研修会、ボランティアに関心のある都民を対象とした講習会を実施しています。
回答9
平成17年11月に策定した「がん・感染症医療センター」整備計画では、緩和ケア医療を重点医療課題としており、緩和ケア医療に必要な医療サービスの具体的な内容については、専門病棟の整備と併せて今後検討します。
回答10
都は、病院や診療所に勤務する医師・看護師などを対象に、緩和ケアに関する最新の知識の普及を図るための研修会を開催しています。既にこの中で、WHO(世界保健機関)の提唱する早い段階からの緩和ケアに関しても情報提供しています。
回答11
駒込病院は、現在の総合診療基盤の機能を活用し、より専門性を高めた、がんと感染症のセンター機能を有する病院として整備するとともに、引き続き、地域医療連携にも努めていきます。
回答12
「がん・感染症医療センター」の整備に当たっては、感染症医療の専門性を一層高めたセンター機能を有する病院として、第一種感染症病床を整備することとしています。施設整備に当たっては、感染症医療施設として適切な整備を行っていきます。
回答13
病院のPFI事業は、都が決定した運営方針の下に、施設建設や診療周辺業務等を対象業務として、コスト削減、業務の効率化、サービス水準の向上等を目指して実施するものです。
がん・感染症医療センターの整備に当たっては、平成17年11月に整備計画を公表するなど、広く都民に計画内容を周知するとともに、都議会に報告し、その議論や意見を踏まえた上で、今後PFI手法で事業を実施していくものです。
以上