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文書質問趣意書
稲城南山開発について
2006年12月13日
村松みえ子(日野市選出)
「東京都の環境白書2006」では、地球の温暖化について、「日本では、ここ数年異常気象が多発している」として、地球全体が過去100年間で0.6度、平均気温が上昇し、日本全体は1.06度の平均気温の上昇で、一方東京では3度も上昇し、地球全体の5倍の温度が上昇しているという深刻な状況が指摘されています。こうした環境を早急に改善し、東京に住み続けられる環境をつくらなければなりません。そのためにも、大気を浄化する大切な作用をする緑地を保全することは欠かせません。
東京都が、今年4月12日に条件付きで認可した「南山東部土地区画整理事業組合設立」は、稲城市民にも都民にも大きな問題点をはらんでいます。
京王線新宿駅から約30分のところに京王稲城駅があり、稲城駅からよみうりランド駅の南側につながる丘陵地が南山です。南山には、豊かな生態系の象徴といわれるオオタカの営巣が確認され、多摩のカンアオイ、キンラン、銀ランなどが生息する、東京近郊で高尾山に次ぐ自然の宝庫と言われているところです。この貴重な丘陵地を開発しようというのですから、多くの市民、都民が「都心に近い貴重な緑地を残して」と声をあげるのも当然です。
計画区域は、約86ヘクタール(多摩動物公園の1.7倍の広さ)の土地に2550世帯、7600人が住む住宅と、中央高速道路から川崎方面に貫通する道路の建設計画です。
この計画にはいくつかの問題点が指摘されています。
1つ目は、南山開発事業は開発地内で土砂の処理をし、地区外には持ち出さないということから、最大30メートル山を崩し、その土砂で谷を最大35メートル(約10階建ての高さ)埋め立てる計画で、大地震のときは、中越地震・宮城県沖地震で大きな被害を受けた振興団地と同じ危険が指摘されています。さらに、この土地は「稲城砂層」といって雨水を大量に含むと、粒子がばらばらになり、流動化を起こし一瞬にして崩壊する性格を持っているものです。
Q1、「稲城砂層」といわれる地域での住宅建設は、大地震のとき中越地震・宮城県沖地震の被害を上回る影響があると思うがどうか。
2つ目は、中央高速道路から川崎方面に貫通する道路による大気汚染についてです。かつて稲城市は、都内では比較的汚染されてない地域といわれていました。しかし、尾根幹線の開通、川崎街道・府中街道の拡幅、多摩川原橋、是政橋、稲城大橋の整備などで飛躍的に通過車両が増加し、多摩地区の中では汚染度が上がっています。
稲城市が平成17年1月に行った調査によると、喘息の警戒数値である0.040ppmを超え、0.067ppmを観測しています。また、市内の民主団体の調査でも、過去5年間に0.06ppmを超しているところが9箇所、0.04ppmを超えているところが41か所もあります。また、60地点で調査した50地点で高度な汚染が観測されています。
東京都教育委員会資料では、稲城の喘息被患率は6〜8%で、都内の新宿、豊島、中央、墨田、江戸川、目黒、板橋、練馬、杉並と同率で、多摩地区では、狛江、三鷹、府中、多摩、国立、清瀬、東大和、瑞穂、福生市と同率であり、調布、町田、八王子、日野、立川、国分寺、小平、東久留米、西東京、武蔵野小金井市より高く、平成13年度時の2%のもっとも低い状況から比べて高い水準になっていることが明らかになっています。
Q2、稲城市民の大気汚染を心配する住民にどのように答えるのですか。
3つ目は、2550世帯7600人を誘致するとしていますが、小学校や保育園の建設の計画がなく、同じようなケースの若葉台地域の小学校では、28クラスで教室が足りず、今年の4月に6教室を増築する事態になる心配もあります。
Q3、「開発先にありき」でなく、広く市民の声を聞くことが大事と思いますが、どうですか。
4つ目は、東京都が認可する際の条件であった「東京における自然の保護と回復に関する条例第47条第3項の規定にもとづく協議について」の回答の中の「特記条件」(17環境自緑協第5号)動植物の生息または生育についての適正な配慮についての
Q4、(1)「各工区の造成を行いながらオオタカの生息行動調査を継続し、オオタカに関する状況及び工事の実施状況について、2ヶ月ごとに報告すること。また、生息状況、繁殖行動等に大きな異状があった場合は、作業を中断し、速やかにその異状の状況及び講じる措置を本都と協議し指示に従うこと」を都として組合に厳重に遵守させるべきと考えますが、どうですか。
Q5、(2)オオタカ繁殖期(「猛禽類保護の進め方」において敏感度から極大までとされる時期)における作業については、施工前に猛禽類専門家の意見を聞き、確実な保護対策を講じた上で実施すること」についても都は、組合に厳重に遵守させるべきと考えますが、どうですか。
Q6、(3)オオタカが根方谷戸地区で引き続き繁殖に執着するような状況にあった場合は、猛禽専門家の意見を聞き、事業の計画変更も含めて検討をおこなうこと」を都は、組合に厳重に遵守させる必要があると考えますが、どうですか。
Q7、東京都は、「南山開発は、地震で崩壊する危険がある宅地造成で、特に流動化現象が起きる危険で有名な稲城砂層が主体で、特別の安全・耐震対策、特別の指導が必要なこと」を口頭陳述した地元住民に、「稲城は『稲城砂層』という特殊な地層なので、学識経験者を入れた研究審議会をつくって、検討結果を報告するよう指導している。宅造許可は、この報告を見て許可することになる。造成工事中の周辺の騒音・振動被害、仮土堰堤の崩壊事故について、周辺住民への事前説明会を実施するよう組合に指導する」と答えていますが、その通りやりますね。
5つめは、これ以上の開発が必要かどうかという問題です。すでに稲城地域は、多摩ニュータウン事業で、UR都市整備機構が稲城エリア開発済みの未利用地が18ヘクタールあり、雑草に覆われています。また向陽台3団地では、すでに建設された総戸数782戸のうち166戸の空室も目立っています。
Q8、稲城市民の95%が「稲城の自然を守りたい」と、04年の市民アンケートに答えているように、緑地を破壊して開発する前に、多摩ニュータウン事業でつくってきた住宅地や住宅を友好に活用することの方が、社会環境に良いのではないでしょうか。
【答弁】
A1 都では、宅地造成等規制法に基づく許可に際し、以前から地震時の安全性に配慮した技術基準を定め、南山東部地区と同様の地質を含む多摩ニュータウンをはじめとする大規模な造成工事を審査するなど、多くの実績を有しています。
平成18年11月、中越地震や宮城県沖地震等での災害状況を踏まえ、大地震時の滑動崩落等の被害防止に関する技術的基準が宅地造成等規制法施行令に追加されました。
本事業の宅地造成については、これらの法令等に則り適正に審査し、必要な検査等を行います。
A2 南山東部地区で計画されている道路は2 車線であるため、都条例に基づく環境影響評価の対象になりませんが、既に公表されている南山東部土地区画整理事業の環境影響評価書では、参考として工事完了後の自動車排出ガスによる周辺環境への影響を検討しています。それによると、二酸化窒素の影響濃度の年平均値は、現況濃度に対して最大1.5%程度と予測されています。
A3 南山東部土地区画整理組合の設立認可に当たっては、土地区画整理法に基づき事業計画を公衆の縦覧に供し、広く市民の意見を聞いてきました。
なお、南山東部地区における小学校及び保育園の建設については、稲城市が「稲城市立学校適正学区等検討委員会」等で検討を行っていく予定です。
A4 都は、本件開発申請に対する同意に際し、動植物の生育又は育成についての適正な配慮を求めるため、オオタカの生息行動調査などの条件を付しています。
組合に対しては、東京における自然の保護と回復に関する条例の趣旨が徹底されるよう,引き続き同意条件の確実な履行について適正に指導していきます。
A5 都は、本件開発申請に対する同意に際し、動植物の生育又は育成についての適正な配慮を求めるため、オオタカの生,島行動調査などの条件を付しています。
組合に対しては、東京における自然の保護と回復に関する条例の趣旨が徹底されるよう、引き続き同意条件の確実な履行について適正に指導していきます。
A6 都は、本件開発申請に対する同意に際し、動植物の生育又は育成についての適正な配慮を求めるため、オオタカの生息行動調査などの条件を付しています。
組合に対しては、東京における自然の保護と回復に関する条例の趣旨が徹底されるよう、引き続き同意条件の確実な履行について適正に指導していきます。
A7 宅地造成等規制法による許可に際しては、学識経験者等で構成する「南山東部土地区画整理事業造成工事検討委員会」の検討結果も考慮し、法令等に則って適正に審査します。
また、造成工事に係る事前説明会については、工事着手前に実施するよう組合を指導していきます。
A8 「稲城市都市計画マスタープラン」では、多摩ニュータウン地区において良好な居住環境の維持と自立的な生活圏の形成を目指すとともに、南山東部地区において都市防災上危険な崖地の解消や既存樹林地、寺社林を活かしたまちづくりを目指すことが位置付けられています。
南山東部土地区画整理事業は、この都市計画マスタープランに則り、公園、緑地等を適切に配置し、周辺環境と調和したまちづくりを実現するものです。
以 上