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第一回定例会 一般質問(全文) 二〇〇七年二月一五日
松村 友昭(練馬区出身)
教育基本法改悪の先取による、管理統制と介入強化と競争原理の持ち込みで、東京の教育は深刻に
「どの子もゆきとどいた教育で、豊かに成長してほしい」というのは、都民の願いです。しかし現実には、いじめや不登校、学力の格差拡大など、東京の教育は大きな問題を抱えています。
石原都政の八年間は、国の教育基本法改悪を先取りし、日の丸・君が代強制をはじめとした教育現場への管理統制と介入を強めただけでなく、弱肉強食の競争原理を教育に持ち込むなど、子どもと教育の現状を解決するどころか、さらに深刻にするものでした。
まず競争教育の問題です。
都立高校の学区廃止と統廃合をすすめたことで、受験生は不安にかられ、過度の競い合いを強いられています。地元の高校に希望が殺到し、泣く泣く志望校を変えた、交通費を負担できる経済的余裕がない子は、行ける学校がないなどの事態が広がっています。入試倍率三倍を目標に受験生集めをする高校もあり、私立を併願できない生徒は本当に厳しい状況です。競争に勝ち抜くための早期からの塾通いも問題になっています。
やっと入学できたと思えば、学校の特色として大学進学率の目標を掲げる学校が増えており、本人の進路希望を大事にするよりも、受験勉強を強いられる事態も生まれています。
かつてのナンバースクールといわれる都立高校を中高一貫校にして、中学校入学段階から差別と選別を強め、競争を激化させています。しかも露骨にリーダー養成をうたうこれらの一貫校や、都の指定する進学重点校には、人の配置や予算も厚く配分するやり方です。こうした一部の人気校とその他の高校の格差が広がっています。
知事、都立高校受験生の競争を激化させる入試制度や学区制廃止、高校の序列化をすすめるやり方は改め、保護者、生徒、教師を含め都民参加で再検討することが必要です。答弁を求めます。
公立小中学校も、都教委の一斉学力テストの実施と公表により、学校現場にゆがみと混乱がもたらされています。小学五年と中学二年の冬休みは宿題づけだとか、三学期はテスト対策ばかり、区の順位を上げるため、一斉学力テストのための模擬テストが広がっています。これは画一的教育の最たるものです。
「あそこの市は最下位だ」と子どもたち同士が傷つけ合ったり、「自分がいると成績が下がる」とテストの日に欠席したり、「どうせ自分はバカだから」と、まだ十代なのに将来に希望が持てなくなってしまったり、成績がよい子も「常にプレッシャーを感じている」「友達が敵にしか見えない」と苦しんでいます。個性も人間性さえも押しつぶしているのです。
知事、知事が競争と詰め込みが必要だと言って押し進めてきたことが、これほど子どもたちを傷つけていることを、どう考えているのですか。お答えください。
国連子どもの権利委員会は二度にわたり、日本の「過度に競争的な教育」は改めるよう勧告しているのです。その立場に立ち、一斉学力テストの実施と公表はただちにやめるべきです。どうですか。
いま、子どもたちに必要なことは、どの子も確かな学力をつけ、自分のことも人のことも大事にし、将来の主権者として成長することです。そのために都がまずおこなうべきは、三十人学級などの教育条件の整備です。
日本共産党都議団は、東京を除くすべての道府県が実施している少人数学級について、改めて全国道府県に対する調査を行いました。その全容は近日発表する予定ですが、特徴的なことは、実施した効果として、「一人ひとりの活躍の場が増し、互いの良さを認め合い、自信を付けてきた児童が増えた」、「学級が落ち着いており、子どもが色々な活動に集中して取り組んでいる」など、安定した人間関係の中で、生き生きと学校生活を送っている様子があげられていることです。「欠席日数や不登校の減少」「トラブル、問題行動の減少」も多くの県があげています。
学習面でも、「児童生徒の学習意欲が高まり、学力向上につながった」「授業につまずく児童が減った」と良い効果が生まれています。多くの県が「事情が許せば三年生以上にも導入したい」三十五人学級で成果が上がっているので「三十人学級への拡大を望む声がある」と、少人数学級の継続、拡大を検討しており、四十人学級の方が良かったなどと言っている所は一つもありません。
少人数学級を実施している道府県の多くが、学習面でも生活面でも効果を上げているのです。都は習熟度別授業だけに固執していますが、他県でそんなところはひとつもありません。最近まで習熟度別授業のみ実施していた県も少人数学級を導入しています。都も、直ちに踏み出すべきです。少なくとも全国の実践例を研究し、検討を開始すべきだと思いますが、答弁を求めます。
競争原理を教育に持ち込むことは、「弱者切り捨て」につながります。石原都政のもとで、一番大きなしわ寄せを受けているのが障害児です。
障害児学校に在籍する児童生徒はこの八年間で一、六七二人、約二十五%も増加しています。ところが、石原都政は学校数を一校も増やさない計画で、八年間の障害児学校の施設整備予算は、その前の八年間の約半分にしかなりません。そのため子どもたちは、深刻な教室不足のなかで毎日を過ごしています。普通教室が足りないために特別教室をつぶすだけでなく、一つの教室をカーテンで仕切って二学級で使うことも恒常化しています。教室不足は年々増え、肢体不自由と知的養護を合わせて、二〇〇二年度には四七二教室の不足が、今年度は六百二教室も不足しています。「障害児学校だから、これほどの教室不足が増えてもいいと思っているのか」と、保護者から怒りの声が上がっているのです。小中高三学部で一校四十学級としても、十五校分ということです。
障害児学校の増設はまったなしです。
養護学校の大幅な増設と教室不足を早急に解消することが必要です。具体的な増設計画および今年度不足してる六百二教室について、いつまでにどうやって解消するのか示していただきたい。答弁を求めます。
重度重複学級の設置が実態とかけ離れていることも、大きな問題です。障害の程度が重度の児童生徒数は、肢体不自由と知的養護学校あわせて二、八五九人ですが、教員配置が厚い重度重複学級に在籍できているのは一、四八二人。約半分の子ども達しか在籍できていません。
重度重複学級は、実態との乖離を直視し、教室不足の改善とともに、当面は教員の配置を先行させることを求めます。
夜間定時制高校も切り捨ての標的にされています。勤労学生とともに不登校などの事情を抱えた生徒の受け皿となってる夜間定時制高校は、九十九年度には九十六校あったのが、この四月に向け募集を行ったのはたった三十九校になってしまいました。統廃合したために定員がいっぱいで、入学するのが難しい学校が続出しています。今年度は一度に一八校も募集停止になったため、また多くの不合格者を生むのではと懸念されているのです。夜間定時制に入れないと、高校進学を断念せざるを得なくなります。
さらに夜間定時制は、給食や教科書代、修学旅行費の補助の削減など、徹底した予算削減がされています。
様々な困難を抱えていても、勉強しよう、学びたいという心の変化をきちんと受け止め、学びの場を保障するのが都の重要な役割ではないですか。
夜間定時制の統廃合計画は見直し、募集再開を含め、生徒の実情に合った配置に改善するよう求めます。
また石原都政は、学校に対する管理統制と介入を強め、学校現場をゆがめ、子ども第一の教育を困難にしてきました。
卒業式、入学式などでの「日の丸・君が代」の強制は、東京地裁が昨秋、違憲・違法と判決を下したあとも、なんら反省することなく強制を行っていることは、断じて認められません。それにとどまらず、職員会議での挙手による意思確認の禁止や、一年でも異動させることが可能な異動要綱の改定により、都教委の意をうけた一方的なトップダウンが横行し、意見を言っただけで「異動させる」と脅され、教師がまともに物も言えない状況が生まれています。
教育は「人間の内面的な価値に関する文化的営み」であり、子どもの成長と発達のために、自由で自主的な空間で営まなければなりません。校長や教員に都教委の顔色をうかがわせるようでは、子ども本位の教育はできません。
日本共産党は、憲法に依拠し、教育の条理に立って、子どもたちの豊かな成長をめざす教育の実現に全力を尽くす決意を表明し、質問を終わります。
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【答弁】
○知事(石原慎太郎君) 松村友昭議員の一般質問にお答えいたします。
競争と詰め込み教育についてでありますが、人間の社会で競争のない社会、世界はないと思います。だれにも得手、不得手があるわけでありまして、それを競争の中でさらに磨き、競うことが、私は人材を育てるすべだと思っています。
詰め込みも、私は、感性、情念ができてくる前の小中学校では絶対に必要だと思います。例えばインドの九九は、二十五ですか、三十五まであるわけでして、これは決して掛け算で覚えるんじゃなくて、門前の小僧がお経をわけもわからずに暗唱すると同じように、暗唱することで、それが社会人になったときに非常に活用されて、インド人の数学に関するレベルというものを向上しているわけであります。義務教育は、基礎学力を培うプロセスでありまして、徹底した詰め込み教育でなくてはならないと思います。
戦後、日本の教育は、行き過ぎた平等主義による画一的な教育が、子どもたちのさまざまな成長の可能性の芽を摘んでまいりました。個性、能力を重視し、それぞれが持つ可能性を存分に発揮させるような教育こそが大切であります。
学校では、互いに切磋琢磨し、競争しながら成長していくための試練が必要であると思います。
他の質問については、教育長から答弁します。
○教育長(中村正彦君) 六点についてお答え申し上げます。
まず、高校の入試制度等の再検討についてであります。
都教育委員会では、生徒、保護者の多様なニーズにこたえるため、学区の廃止によります学校選択制の拡大や、入学者選抜方法の特色化を進めるとともに、チャレンジスクールや中高一貫教育校などの新しいタイプの学校の設置や、進学指導重点校の指定など、特色ある学校づくりを行い、都立高校の個性化、特色化に努めてまいりました。
こうした取り組みによりまして、都立高校におきましては、大学進学実績の向上、中途退学者の減少、卒業時に進路が決定していない生徒の減少など、着実な成果があらわれております。
今後も引き続き都立高校の改革を着実に推進し、生徒、保護者の期待にこたえることが重要でありまして、改革の取り組みを再検討する考えはございません。
次に、学力調査の実施と公表についてであります。
都教育委員会が実施している学力調査の目的は、児童生徒の学力の実態を明らかにすることによって、それぞれの教師が授業を改善し、生徒の学力の向上を図ることにあります。また、都教育委員会は、東京都全体の学力水準の維持向上を図るために、区市町村別の調査結果を公表しております。
今後も、児童生徒の学力の実態を明らかにし、区市町村や学校の取り組みへの具体的な支援を行うために、学力調査を実施し、その結果を公表することで、学力のより一層の向上を図ってまいります。
次に、学級規模についてですが、都教育委員会としては、教育効果という観点から、都内の少人数指導実施校における取り組みを踏まえまして、基礎学力の向上に配慮し、きめ細かな指導を行っていくためには、教科等の特性に応じた多様な集団を編成できる少人数指導が有効であると考えており、今後ともその充実に努めてまいります。
一方、生活集団としての教育効果を考えた場合、児童生徒が集団の中で互いに切磋琢磨し、社会的適応能力をはぐくむため、学級には一定規模が必要であると考えておりまして、従来の方針に変わりはございません。
次に、養護学校における教室の確保についてでありますが、この十年、知的障害養護学校に入学する児童生徒が急激に増加する中、これに対応して必要な教育環境の整備を図ることは極めて重要でございます。
都教育委員会では、こうした児童生徒の急増に対する教室確保対策として、平成十六年十一月に策定いたしました東京都特別支援教育推進計画に基づきまして、本年度、田園調布養護学校を新設するとともに、葛飾養護学校外九校において校舎増築、改修の工事に着手したところであります。今後、さらに青梅東学園養護学校、仮称でございますが、外四校を新設する予定であります。
なお、今年度は、学校の改修工事等を行い、必要な教室数を確保しております。
今後も、教室を確保するための環境整備に努めてまいります。
次に、重度重複学級の実態についてでございます。
重度の障害がありましても、普通学級での方が教育効果が上がると考えられる場合は、普通学級に在籍させております。
重度重複学級は、重度重複学級の教育課程が必要であると認められる児童生徒を対象としております。したがって、重度の障害のある児童生徒のすべてが重度重複学級の対象となるわけではございません。
また、教職員定数につきましては、国の基準を踏まえ、学級数に応じて必要な定数を措置しております。
最後に、都立高校の夜間定時制課程についてでありますが、定時制課程につきましては、働きながら学ぶ生徒や不登校経験のある生徒、高校の中途退学者など、多様化する生徒のニーズにこたえるとともに、全・定併置校が抱える施設利用や指導時間の制約などの課題を解決し、定時制教育の条件改善を図る必要がございます。
このため、都立高校改革推進計画に基づき、周辺の夜間定時制課程を統合しながら、昼夜間定時制独立校の整備をしており、今後も着実に計画を推進してまいります。
以上