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2007年1定 文書質問趣意書

「産業振興基本戦略」と今後の中小振興策について

2007年3月7日 小竹ひろ子(文京区選出)

 東京都産業労働局は1月末に「東京都産業振興基本戦略(素案)」(以下「産業基本戦略」)を発表しました。その後、都民意見の公募という形をとり、「2006年度末までに最終まとめを発表したい」としています。そこで、この「産業基本戦略」のうち、中小企業振興策に絞って、何点か質問します。
 最初に、「産業基本戦略」の策定趣旨が「『10年後の東京』が目指す都市像の実現を産業振興の面から具体化するもの」とする点についてです。
 そもそも「十年後の東京」は、オリンピックにむけた三環状道路を中心としたインフラ整備に主眼がおかれており、福祉やくらし、教育などの施策に見るべきものがありません。福祉の目玉は介護ロボットの研究で、特別養護老人ホームやリハビリテーションの充実、介護保険の負担軽減など、都民要望にこたえる中身がありません。教育でも三〇人学級など、ゆきとどいた教育のための条件整備は見あたりません。
 産業分野にいたっては、切実な課題となっている商店街事業、農林漁業対策にはひと言も言及がありません。
 この「十年後の東京」で掲げられている産業を見ても、「都市機能の向上をふまえ、東京の持つ豊富なポテンシャルを活かして、東京の将来を支える都市型産業を重点的かつ戦略的に育成していく」としています。そして、「創造的都市型産業群」として例示しているのは、「環境、健康・医療・福祉、危機管理、アニメ・コンテンツ、デザイン、ファッション、情報家電、マイクロマシン、航空機」です。また、「三環状道路の開通や羽田空港の国際化など、今後の都市機能の向上を契機に、都市機能活用型産業を育成していく」、「多摩シリコンバレー」は三環状道路のひとつである圏央道促進の理由づけと言われても仕方のないものです。まるで、都市づくり戦略と産業をマッチさせていけば、すべてがうまくいくような記述です。これを読んだ学者の方からも、「これでは産業政策に名を借りた東京都市再開発プランだ」との声が寄せられています。

Q 産業政策を考えるというのに、このようなオリンピックにむけた「『十年後の東京』がめざす都市像の実現を産業振興の面から具体化するもの」する事自体が間違いです。このような「十年後の東京」を前提にせず、産業政策をつくるよう求めるものです。

 東京の産業振興をいうのであれば、まずは東京の中小企業の実態の上に立って、今求められていることはどういうことなのかを分析することが必要です。
 東京の中小企業は、倒産、廃業で減少しつづけています。製造業でみれば3割も減少しており、その8割は10人未満の中小零細企業となっています。

Q 今後10年の産業振興の施策展開の方向性を示した「産業基本戦略」といいながら、「産業基本戦略」には、こうした現状分析がありません。そもそも、長期的視点にたった産業戦略を考えるなら、地域経済、中小企業など、中小企業の実態、東京の産業の実態を分析することが必要です。答弁を求めます。

 「産業基本戦略」では、「これまでの施策の成果」として、CLO・CBO、ファンドの活用やベンチャー企業の育成や産技研の独法化などがあげられていますが、CLO・CBOなどで資金調達できるのは体力ある中堅企業が対象です。今中小企業のおかれている厳しい現状の上に立って、本当に必要とされていたものなのかどうかはなはだ疑問を感じざるをえません。

Q これまで都が行って来た施策が、現状の中小企業にとってどのように使われてきたのか、その問題点と成果・教訓など、今後にいかし発展させいくべきは何なのかについて分析など、これまでの東京都の産業政策の総括が必要です。また、東京都の独自の役割として、区市町村など基礎的自治体との連携などの視点が必要です。それぞれ答弁を求めます。

 「産業基本戦略」は、「基本的考え方」で「イノベーションにより国際競争力を強化」としています。
 グローバリゼーションは避けて通れない課題ですが、グローバリゼーションの中でも、ヨーロッパの各国では、地域に密着した中小企業が主役になっています。地域に根付き中小企業が、本当に消費者・ユーザーにとって選ばれるお店づくり、工場づくりをするために、それぞれの企業の特徴を活かして行く必要があります。
 また、「イノベーション」、技術革新の必要性は、これまで繰り返し言われてきたことです。しかし、中小企業の多くは、簡単にはできず、その底上げが求められています。
 そのためには、きめ細かな相談にのることのできる専門能力をもった職員が欠かせません。しかし、この間石原都政がすすめてきたのは、高度な技能と見識を持った人材を確保していた商工指導所を廃止してしまうなど人材育成に逆行しています。2001年に51名いた中小企業経営診断士などの資格をもった経営指導職という専門職の人は、2006年には東京都中小企業振興公社を含めて23名に半減してしまいました。

Q 大阪では継続させ商工業の支援に大きな役割を果たしています。人材育成を言うなら商工指導所を復活させるなど、有能な人材を確保し中小企業を支援すべきです。見解を求めます。

 「産業基本戦略」は、「10年後の東京」をうけ商業振興策などについて、非常に低い位置づけになっており、充実する必要があります。また、業界団体から再三にわたり要望があがっている建設産業振興については、振興策がみえません。
 建設産業振興策について言えば、東京都では、これまで産業振興の対象に位置づけられておりません。都市整備局で、「建設工事請負契約上の紛争相談」「建設業者の許可、指導、監督、および経営事項審査」などに対応しているだけです。これでは、建設産業の振興を、産業政策としてかんがえられるわけがありません。国は、すでに建設業を「地域の基幹産業」として位置づけ、「新しい建設業政策のあり方」を検討しています。

Q 建設業を、地域の基幹産業として位置づける必要があると考えます。また、建設業を含めた産業振興政策をつくるよう求めます。それぞれ、答弁を求めます。

 「産業基本戦略」についての問題点を指摘してきましたが、このような「産業基本戦略」ができた要因の一つとして、その作成手続きにかかわる問題があります。
 東京都には、「東京都中小企業振興対策審議会」(以下、「中対審」)が設置されています。この審議会は、2004年5月の「都のものづくり産業の集積施策のあり方」答申を発表して以来、休眠状態です。

Q こうした各種審議会が設置されているにもかかわらず、ごく少数の委員のみですすめる一方、産業の基本方針を都民参加ですすめないのは問題です。東京都の産業政策は、あらためて作成段階から各産業の代表を網羅し公募した都民による参加で、審議をすすめ、産業にかんする基本方針を作成するよう求めるものですが、答弁を求めます。

 一方、都立産業技術研究所の臨海部への移転を決めた「産業支援体制の再整備に係わる基本構想検討」は、7人の委員でわずか半年間、4回の会議を経て発表。「産業基本戦略」も7人の委員で5回の会議が開催され今年の1月30日に素案が発表されましたが、検討経過も非公開ですすめられ、委員会の議題すら公表されません。

Q こうした経過でつくられた「産業基本戦略」をもとに、予算が重点的に配分されて執行するようなことはあってはなりません。広く、産業振興を考え、特定の分野に偏って執行するようなことがないよう求めるものですが、答弁を求めます。
以上