和泉なおみ(葛飾区選出)
子どもの貧困とひとり親家庭への支援について
城東地域のものづくりについて
答弁
はじめに子どもの貧困とひとり親家庭への支援について伺います。
私自身も父子家庭で育ち、父の商売がうまくいかないなどで収入が途絶え、電気やガスを止められるなどの困窮生活でした。二人の妹たちと祖母の家で夕飯を食べさせてもらうのは、子ども心に肩身の狭いものでした。何とか高校は出ましたが、これ以上親に迷惑はかけられないと、大学進学はあきらめました。貧困は、物質的な問題だけでなく、子どものこころに「あきらめ」を植えつけます。ですから、お金がなくて進学を断念した、一日でまともな食事は給食だけ、このような貧困の実態が子どもたちに広がっていることを私は見過ごすことができません。
六人に一人の子どもが貧困状態にある。このような日本の現状は一刻も早く解決されなければなりません。一昨年「子どもの貧困対策法」が成立し、安倍政権は対策大綱を策定しましたが、実効性が乏しく、改善・充実を求める声が上がっており、自治体独自の努力も始まっています。
Q 第一回定例会で、知事が「貧困の連鎖を断ち切るためには、労働の分野でも、教育の分野でも、機会の平等を保障することが必要だ」と答弁したことは重要です。神奈川県など四府県は「子どもの貧困対策法」を受けて、子どもの貧困対策について独自の計画を作り、推進する体制もとっています。これに対し、東京都はひとり親家庭自立支援計画や、子ども子育て支援総合計画に子どもの貧困の記述はあるものの不十分です。都も関係者、研究者を含めた検討会などを設置し、東京の子どもたちの実態を把握することが重要です。それに基づいて子どもの貧困削減目標を明確にした計画を作り、推進体制も整えることを求めますが、どうですか。
Q 文部科学省も、教育への公的投資は格差の改善や将来の公的支出の抑制等の効果があるとした資料を提出し、高学歴のほうが年収が高く、経済的理由で大学や専門学校をあきらめた人が一定数おり、学歴が低いほど貧困率が高いことも示されています。
教育格差の是正をはじめとした、子どもの教育への公的投資は、重要な意義、社会全体への効果があると思いますが、知事の認識をうかがいます。
Q 親の収入状況に関わらず、教育の機会を保障し、学力の定着、向上を図ることが、子どもの未来を切り拓くうえで重要です。 今年度から施行された生活困窮者自立支援法に基づく無料塾などの「子どもの学習支援事業」は、都内二七区市と都の福祉事務所で実施していますが、より多くの区市での実施が求められています。生活困窮世帯の小中学生、高校生が必要な支援を受けられるよう、都としても区市を支援することが求められますが、どうですか。
Q 学習支援について文科省は福祉や教育の関係機関が連携して包括的に進めるよう通知を出しています。都教育委員会はこの通知をどう受け止め、どう連携を進めるのですか。
Q 夕食をカップラーメンや、お菓子だけで済ませてしまうなど、食生活の貧困は子どもの発達を阻害し、健康だけでなく学習面にも大きな影響を与えます。保護者が子どもを見られないときに、夜間に預かって、学習・生活支援と居場所作り、食事の提供ができる制度としてトワイライトステイがありますが、都内で実施しているのは一八区市です。小中学生・高校生までを対象に全区市町村が実施できるよう都として支援すべきですが、どうですか。
子どもの貧困率を引き上げる原因の一つは、非正規雇用の拡大です。収入が安定せず、賃金は低く、そのためにダブルワーク、トリプルワーク、長時間労働をすることになります。経済的な困難が子どもと親の接する時間を奪います。
とりわけひとり親家庭の貧困率は深刻で、五割を超えています。日本のひとり親家庭の特徴は、就労率が高いにもかかわらず貧困の状態だということです。子どもの貧困対策を考えるとき、ひとり親家庭への公的支援は中心的な課題です。
Q 私は、シングルマザーの実態をお聞きました。ある人は非正規雇用で月収は一〇万円前後です。その中から家賃五万五〇〇〇円のほか、光熱費、通信費、学校教材費などを払うと、食費と日用品に使えるお金は月二万五〇〇〇円。予算どおりには収まらず、ほぼ毎月赤字です。この赤字を、年三回支給される児童扶養手当で補填しているのです。滞納している費用を払って、子どもが楽しみにしている四ケ月に一度の外食をして、小さくなってしまった子どもの服やくつなど、必要なものを買うとほとんど残らず、貯金はできません。しかし、その頼みの綱の児童扶養手当も、子どもが一人の場合には、年所得五七万円を超えると減らされていきます。また、ある人は帰りが遅いため、たまにしか夕食をつくれません。それさえ子どもが気遣って「コンビニのお弁当でいいよ」と言うそうです。子どもの健康や発達を気遣いながらもそうやって働かないと暮らしていけないのです。このように深刻なシングルマザーの生活実態を、知事はどう認識していますか。
Q こうした事態を打開するためには、社会保障、子育て支援などとともに、最低賃金の大幅な引き上げ、同一労働同一賃金の徹底など抜本的な解決が必要です。都として、ひとり親の就労支援に積極的に取り組むべきです。
都と東京労働局が連携・協力して「非正規雇用の正規化」などを進める雇用対策の取組みに、ひとり親家庭の雇用就労対策を位置づけることが重要だと思いますが、どうですか。
Q 家計に重い負担となっているのは家賃です。ひとり親家庭の住まいの確保に対する支援の重要性、家賃が家計に及ぼす影響について、都はどう認識していますか。都内では武蔵野市など五区四市が、家庭支援の立場から月一万円家賃助成など一人親家庭への家賃助成を行っています。都としてこうした区市町村への支援をはじめ、ひとり親家庭の住まいへの支援を強化する必要があると思います。ひとり親家庭の住宅確保策に取り組むべきと考えますが、どうですか。
次に、城東地域のものづくりについてです。
Q 私の住む葛飾区は都内でも四番目に製造業の多い町です。しかし、この二〇年の間に、工場の数も工場で働く人の数も半分以下に減ってしまいました。給与や製品出荷額は6割も減少しています。
先日、私は地元の町工場の経営者に話を聞きました。リーマンショックの前には四千万円あった売上が半減し、ついに今期は赤字になってしまった。まわりも廃業しているなど、深刻な状況を語っていました。ひとたびものづくりの話になると活き活きと目を輝かせる熟練工の優れた技術は今、危機に瀕しています。
製造業の衰退は、ものづくりを主要産業とする地域にとって地域経済そのものの衰退を意味すると思いますが、知事の認識を伺います。
Q 台東区・荒川区・足立区・墨田区・葛飾区の五区は二〇〇六年にTASKプロジェクトを立ち上げました。都内のものづくりの四割が集積する城東地域の特性を活かして、受注生産だけでなく製品開発への支援を行っています。「ものづくり大賞」で受賞した作品を国際見本市に出展したり、量販店で展示販売するなどの支援を通じて、ヒット商品も生まれています。自分たちで製品を開発したり、審査員へのプレゼンテーションでアピールすることが、ものづくりの自信とモチベーションにつながり、新たな製品の開発へとつながっています。このような取組みについて、都はどのように認識していますか。
Q TASKプロジェクトの事務局は、参加企業を増やし、裾野を広げていく必要があるけれども、各区二百万円ずつ出しあって一千万円の予算では、厳しいと語っています。
都は、今年度から広域連携で新しい技術や製品の創出等を目指す区市町村の取り組みを支援する産業集積活性化支援事業を開始しました。TASKのような既存プロジェクトでも、新たな取組みやステップアップ事業などへの支援が必要だと思いますが、どうですか。
Q 墨田区では、世界的に活躍するクリエーターとの共同で、荒川区は首都大学東京や都立産業技術高等専門学校などとの産学連携で、それぞれ区内事業者との商品開発を支援しています。葛飾区は東京理科大にある研究戦略・産学連携センターとの産学公連携を進めています。
これらの取り組みには、個々の事業所と時間をかけて関係を築き、ワンストップで、さまざまな相談にのり、伴走型で支援するコーディネーターが大きな役割を果たしています。助成金や補助金のアドバイスをしたり、商品開発のためにデザイナーや大学・教育機関とのつなぎ役になったり、受注生産の事業者が、自分たちの技術で「新しい商品を生み出す」ことができるよう支援しています。
このような役割を果たしているコーディネーターの重要性を都はどう認識しているのですか。
民間企業の現場で製品化などの実績をもつ技術者のOBをはじめ、東京には多くの人材がいます。そうした方々をコーディネーターとして養成、確保、活用していく新たな取組みに踏みだすことを求めておきます。
Q ものづくりの後継者育成を支援の柱として取り組まれている墨田区の「フロンティアすみだ塾」、荒川区の「あすめし会」で育った若い人たちが、自主的に集まり「下町サミット」という勉強交流会を行っています。この下町サミットは、四〇人から始まって、開催ごとに参加人数を大きく増やしています。町工場に希望の光をともすだけでなく、地域経済や地域コミュニティの将来にとっても、明るい展望を示すものだと思いますが、このような取組みに都はどのような認識を持っていますか。
Q 厳しい経営状況の中、自分たちでイベントの費用をまかなうのは大変なことです。行政が支援をしていることで若手後継者たちが元気に活動できていると区もコーディネーターも話しています。後継者たちが自主的に行うセミナーや研修の講師料交流会の会場費などに都としても支援をしてはどうですか。
Q 台東区は区内のものづくりの現場を解放し、町歩きをしながら一般の人々が町工場などを見学できる「モノマチ」というイベントを開催しています。また、足立区では、足立ブランドに認定された町工場を小中学生が見学して、子どもの頃から自分の町のものづくりに親しみ、興味を持てるよう取り組んでいます。
住工一体で地域に定着してきた町工場は、地域経済を支え、コミュニティの活性化にも、なくてはならない役割を果たしてきた町の大事な財産です。イベントや工場見学会などを通して自分の町に優れたものづくりの技術が息づいていることを知ることで、町工場で働く人と、住民の両方が地域に誇りと愛着を持つようになり、地域の発展にもながるこうした取り組みは、きわめて重要だと思いますが、都の認識を伺い、私の質問を終わります。
以上
〇知事 和泉なおみ議員の一般質問にお答えいたします。
教育への公的投資についてでございますけれども、貧困の連鎖を断ち切るためには、教育の分野でも機会の平等を保障することが必要だと考えております。親の経済状態にかかわらず、将来、子供がみずからの生き方を選択し自立できるよう、機会の平等を保障するためのセーフティーネットを構築することは、まずは国家の責任でございます。
都としては、子供たちの誰もが能力や適性を発揮できるよう、基礎、基本の徹底による学力の習得、向上や、教育への福祉の専門人材の活用など、昨年取りまとめました東京都長期ビジョンに、既にさまざまな施策を位置づけてございます。今後とも、これらの施策に取り組んでまいります。
続きまして、ひとり親家庭についてでございますが、ひとり親家庭の親は、子育てと生計の担い手という二つの役割を一人で担うため、負担が大きく、世帯収入も両親がいる世帯と比較すると低い傾向にございます。こうした生活実態を踏まえまして、都は、本年三月に東京都ひとり親家庭自立支援計画を改定し、相談体制の整備、就業支援、子育て支援や生活の場の整備、経済的支援を柱にひとり親家庭の支援に取り組んでございます。
続きまして、製造業と地域経済に関する認識についてでございますが、我が国経済は、全体として穏やかな回復基調にあるものの、円安による原材料価格の高騰などにより中小製造業者の多くは依然として厳しい経営環境に置かれております。
都内に集積する中小企業は、地域の産業や雇用を支える原動力であると認識しており、都は引き続き、経営、技術、資金繰りなどの面から幅広い支援策を講じてまいります。
そのほかの質問につきましては、教育長及び関係局長が答弁をいたします。
〇教育長 福祉関係機関との連携についてでありますが、都教育委員会は、次代を担う子供の育ちを支援するため、教育と福祉等との関係機関による連携協力を着実に進めてきております。
具体的には、児童生徒や家庭のさまざまな課題の解決を支援するため、スクールソーシャルワーカーの配置を拡大してきております。また、子供と家庭を一体的に捉え総合的に支援するため、教育相談センターを子供家庭総合センターに設置し、福祉保健及び警察の各相談機関と連携して問題の解決を図っております。
今後とも、福祉関係機関等との連携については、関係法令の趣旨を踏まえながら適切に対応してまいります。
〇福祉保健局長 四点のご質問にお答えをいたします。
まず、子供の貧困対策についてでありますが、都は、学識経験者、保育園、幼稚園の事業者、区市町村の代表者などで構成する東京都子供・子育て会議での議論や子育て家庭の生活実態等も踏まえ、本年三月に、東京都子供・子育て支援総合計画及び第三期ひとり親家庭自立支援計画を策定いたしました。
これらの計画には、ひとり親家庭や社会的養護を必要とする子供など、支援を必要とする子供や家庭への支援を目標に位置づけ、就業支援や子供の学習支援について具体的な目標や施策の方向性を定めており、現在、関係各局が連携して、福祉、医療、雇用、住宅、教育などさまざまな分野で取り組みを進めております。
次に、子供の学習支援事業についてでありますが、都は、今年度から、実施主体である区市に対し、学習支援事業の導入のための検討準備経費について、包括補助により支援しております。また、区市の担当者会議などを通じ、効果的な先行事例の紹介を行っており、今後とも区市の取り組みを支援してまいります。
次に、トワイライトステイ事業についてでありますが、この事業は、児童福祉法に基づく子育て短期支援事業であり、区市町村がそれぞれの自治体の実情に応じ、対象年齢や運営形態を定めて実施しております。
また、この事業実施に要する運営経費は、国の要綱に基づき、国、都、区市町村が負担することとなっております。新たに区市町村が事業を開始する場合には、施設整備費等を都独自に包括補助事業により支援しており、今後とも、区市町村の取り組みを支援してまいります。
最後に、ひとり親家庭の住宅確保策についてでありますが、ひとり親家庭が地域で自立した生活をしていくためには、住まいの確保が重要でございます。
そのため、都は、都営住宅の一般募集における当せん倍率の優遇制度、ポイント方式による住宅募集、母子生活支援施設退所者向け特別割り当て等により、ひとり親家庭への都営住宅の提供を行っております。
また、民間賃貸住宅への円滑な入居を図るため、住宅情報の提供等の支援を行う居住支援協議会の設立を区市町村に働きかけますとともに、住宅の転居費用等について、母子及び父子福祉資金の貸し付けを実施しております。
〇産業労働局長 七点のご質問にお答えをいたします。
まず、東京労働局と連携をした就業支援についてでございますが、都は国と雇用対策協定を締結し、非正規対策や女性の活躍促進など、幅広い分野で連携した取り組みを進めております。
東京都ひとり親家庭支援センターにおきましては、求人情報の活用や就業支援プログラムなど、ハローワークとの緊密な連携のもとで、ひとり親家庭の実情に応じたきめ細かな就業支援を実施しております。引き続き、こうした取り組みを行ってまいります。
次に、ものづくり支援における区市町村の広域連携についてでありますが、都内中小製造業の競争力を高めていくために、区市町村が連携して地域の特性を生かした事業者の取り組みを促進することは有益であると考えております。
次に、区市町村の広域連携に対する支援についてでありますが、都は、産業集積の活性化を支援する事業において、区市町村が既に実施している広域連携の取り組みであっても、内容に新規性や拡充性が認められるものについては、補助の対象としております。
次に、産学連携のコーディネーターについてでありますが、中小企業が他の企業や大学と共同して製品開発などに取り組む際、コーディネーターは、連携を円滑に進める上で重要な役割を担っていると認識をしております。
次に、若手経営者による地域活性化の取り組みについてでありますが、中小企業の若手経営者の方々が交流会や勉強会などの活動を主体的に行うことは、地域産業の活性化にとって有益であると認識をしております。
次に、若手経営者の活動への支援についてでありますが、都は、商工会議所や商工会が行う地域産業の活性化に向けた事業を支援しており、地元中小企業の主体的な取り組みをサポートする事業なども支援対象としております。
最後に、ものづくりに対する住民の理解促進についてでありますが、イベントなどを通して中小製造業のすぐれた技術や製品に対する地域住民の理解を深めることは、地域産業の持続的発展にとって意義のあることと認識をしております。