第一回定例会を終えて
二〇一二年三月二九日
日本共産党東京都議会議員団
幹事長 大山とも子
東日本大震災と原発事故から一年、いま都政がおこなうべき緊急課題は、被災者・被災地への全面的支援とともに、防災力強化と放射能汚染対策、再生可能エネルギーの大幅な導入などに取り組むとともに、きびしさを増す都民のくらしと福祉、中小企業・雇用をまもり増進させることです。私たちは、この立場で全力を挙げました。
一、 知事の自己責任第一、予防対策軽視の立場が防災対策の立ち遅れをまねいている
今定例会では、震度7の首都直下地震の危険も指摘されるもとで、昨年の東日本大震災や十七年前の阪神・淡路大震災を教訓に、東京の防災対策の抜本的強化が求められました。
議会の論戦を通じて、東京都の防災対策の立ち遅れの原因が、石原知事の基本姿勢にあることがいっそう明瞭になりました。石原知事は就任後間もない二〇〇〇年十二月、それまで震災の被害、犠牲者を最小限におさえるための予防対策を中心にすえていた「震災予防条例」を、都民の自己責任第一を原則とし、予防対策を軽視する「震災対策条例」に改悪し、都の震災対策の根本がゆがめました。その結果、一九九七年度には約一兆円だった計画事業費が、二〇一〇年度には約五千二百億円へ半減するなど、震災対策が大きく後退しました。
私たちは、この影響が木造住宅の耐震化や、河川の堤防などの耐震化の遅れに、明白にあらわれていることを、ただしました。
建築物等の安全化のための事業費は、一九九九年度から二〇〇八年度までに、五分の一まで落ちこんだのです。ここには、知事の「自分の生命、自分の財産を守るのは自分の責任だ」「行政はそんなもの負うんじゃない」という考え方がもっとも深刻な形で反映しています。都が二〇〇六年度に都民の声におされてようやく木造住宅の耐震改修助成をたちあげたとき、十年間で二万二千戸の目標をかかげていましたが、実績は五年間でわずか三百戸程度の助成にとどまりました。助成対象を極端にしぼったためです。このような県はほかにありません。同じ期間に、「倒壊ゼロ」をかかげる静岡県では、九千件近くの助成をしています。この結果、東京では耐震基準をみたしていない木造住宅が、いまだに三割以上残されています。
東京湾北部地震の震度が6強から7へと強まれば、全壊する木造住宅は二倍以上になることが警告されているにもかかわらず、都民に自己責任をおしつける石原都政の姿勢は、許せません。
私たちは、東部低地帯の河川の堤防が、都自身の十七年前の点検で、百六十五キロメートルの耐震対策が必要だとされながら、いまだに六十八キロメートルが未完了で、震度7の地震では堤防自体が損傷し、水害が発生する危険が強いことを、指摘しました。
この問題でも、なぜこうした重大な立ち遅れが生じているのかは明確です。昨年の決算特別委員会でのわが党の質問に対し、「あくまでも財源確保をいかにしていくかということが極めて重要だ」との答弁がありました。要は、都が防災対策に必要な財源を投入するかどうかです。
都が震災予防対策を抜本的に強化し、都民の生命、身体、財産をまもる立場にしっかりと立ち、合わせて、住民本位の応急対策、復旧・復興対策をすすめるよう、私たちはこれまでにまして奮闘するものです。
同時に、私たちがくりかえし要望してきた、都内への避難者の仮設住宅入居期限をひきつづき延長することを、知事が表明しました。ささやかですが、避難者の皆さんに安堵していただくことができました。私たちは、避難者のみなさんが、せめて東京にいる間は、安心した生活ができるよう、さらに力をつくします。
二、 放射能対策は安全サイドに立って、低線量の内部被ばく防止対策を。原発推進の知事の立場は無責任
福島原発事故により、未曾有の量の放射性物質が放出され、汚染が広がりました。東京でも、昨年三月の一ヶ月間に一平方メートル当たり一万六千六百ベクレルのセシウムが降り注いだことが新宿で測定されています。その後、放射性物質が雨などで、水が集まりやすい場所や川や海に汚染が移動し、土壌などに吸着することで、局所汚染が都内で一定の広がりを示していることが明らかになっています。
いま東京でとりわけ問題になっているのは、低線量であっても放射性物質を、長期にわたって土壌などでも呼吸や口から、あるいは食物や水などをとおして、体内に取り込んでしまう内部被ばくの危険性です。食品については、いま国や都がやっている検査のやり方や頻度では、基準を超えた食品がいくらでもすりぬけますから、私たちは、技術的に可能となった米の全量検査をはじめ、生産地における検査の抜本的拡充を国に要望するとともに、都自らも市場などに流通する食品の検査体制を大幅に拡充するよう求めました。しかし、都はいまの検査で「全く問題ない」という無責任な態度をとったことは、重大です。
また、私たちの調査で、水元公園で一キログラム当たり二万三千ベクレルのセシウムが検出されたことをはじめ、江戸川土手下などで二万ベクレル、お台場でも一万ベクレルをこえる土壌があったことを示し、局所汚染対策に本格的にとりくむよう求めたのに対しても、都は調査も除染も必要ないとする立場を変えようとはしませんでした。
放射線障害防止法では、一キログラム当たり二万三千ベクレルの土壌がわずか一・六キログラムあるだけで、放射線管理区域から持ち出してはならないとしています。そういうものが、身のまわりに存在すること自体が、あってはならないことです。ところが、都は、今回の原発事故による土壌中の放射性物質は法が適用されないといって放置しています。放射線障害防止法は、こうした事態を想定していません。だからといって管理地域以外にあってはならないとされる、レベル以上の汚染土壌の上で子どもが遊んでもかまわないとする都の姿勢を都民は到底納得しないでしょう。
低線量の内部被ばくについては、どこまでが安全で、どこまでが危険かの「しきい値」がないというのが現在の科学的知見です。だからこそ、安全第一の立場に立つことこそ、都がとるべき姿勢です。都が固執する国の基準、測定・除染のガイドラインは、原発事故前に比べると大幅にゆるめられた、いわば「がまん基準」でしかありません。都は、低線量の内部被ばくから、都民とりわけ子どもの安全・安心を守るために、食品検査体制の充実と、都有施設における局所汚染の詳細調査をおこない、総合的な対策を速やかに講じるべきです。
知事は「原子力を否定することは、国が滅びること」などといって、原発推進の立場をあらわにしていますが、予算特別委員会で私が、ひとたび原発事故によって放射能が外部に漏れたら、それを抑える手段、技術をいまだ人類は持っていないということを指摘したとき、知事自身が、自席から「そんなことはわかっているよ」と発言しました。原発の危険性を知りながら、なお原発を推進することこそ、「国を滅ぼす道」です。知事のもとで再生可能エネルギーの活用も、この間ふえるどころか逆に減っているのです。わが党は、原発ゼロ、再生可能エネルギーの抜本的に普及のために力をつくします。
都などオリンピック招致委員会がIOCに提出したオリンピック招致申請ファイルでは、震災のリスクは少なく、原発事故は収束に向かっていると書かれています。しかし、いま東京では、震度七というリスクをかかえており、原発事故は収束どころか、その見通しすらたっていないというのが実態です。申請ファイルが事実をゆがめて記述している背景に、オリンピック招致のためには、東京は安全だと言わなければならないとする知事の政治的意図が強く働いていることを指摘せざるを得ません。都には、オリンピック招致の是非にかかわらず、都民、国民、国際社会に対し、リスクを明らかにし、どのような対策を取るかを明確にする誠実な態度こそが、もとめられています。
三、 子どもを詰め込む保育所設備運営基準見直しは許せない。都民のみなさんと力を合わせ保育の質と安全を確保するため全力をつくす
今定例会で子どもたちの福祉についても、重大な後退がありました。保育所設置運営基準の見直しです。本来、子どもたちの心身の健やかな成長・発達を保障するためには、面積基準の拡充こそ求められているにもかかわらず、逆に現場も圧倒的多数の都内自治体も反対している、面積基準緩和を条例化したことに、都民、関係者の批判の声が高まっています。また、保育を支える人員配置も、きわめて不十分な国基準どおりというものです。保育の質と安全確保からしてもとうてい認められません
同時に「こころの健康基本法(仮称)の早期制定を求める意見書」が全会派一致で採択されたことや、四月から認知症疾患医療センターの運営が開始されることが発表されたことは重要な成果といえます。
四、 防災予算は五割増、放射能対策は八倍、福祉保健費は一兆円台の予算組み替え案を提案
石原知事の都政運営、予算編成には、重大な問題があります。
石原都政の二〇一二年度予算案は、防災対策は、もっぱら道路建設に偏重し、拡充にはほど遠く、くらし・福祉・中小企業の充実は引きつづき軽視されています。とくに今日、国政での消費税増税のたくらみとともに介護保険料、後期高齢者医療保険料、国保料(税)の引き上げなどで、都民生活がますます困難になっている中で、都民の願いとはかけ離れたものとなっています。
一方、東京をアジアの司令部にするとか、オリンピック招致の名で外環道をはじめ巨大な道路や港湾施設、八ツ場ダム建設などの浪費を拡大し、全国で失敗が相次いでいる外国企業誘致のための再開発などを最重要視しているものであり、その偏重ぶりは、際だっています。
このことは、「二〇二〇年の東京」の三ヵ年計画で、過大なインフラ整備などに三四%もの事業費をあてる一方、高齢者対策には四・二%、少子化対策は三・一%しかあてないということに端的にあらわれています。
私たちの指摘に対し、知事はハード整備と仕組みづくりや区市町村の取り組みなどを中心とするソフト事業を同じ土俵の上で比較するのは意味がないと言いました。この考えは福祉はもっぱら区市町村の仕事というもので間違っています。地方自治体である東京都が福祉を主体的に進める立場を投げ捨てたものに他ならないからです。
このため、わが党は、浪費的な大型開発やムダづかいなどを減額し、オリンピック基金の約二割程度を活用することなどで、百四十五事業を拡充する予算組替え提案をおこないました。
これよって、知事提案の東日本大震災に対応する防災対策を五〇%のばし、放射能対策は八倍、環境・エネルギー対策も五五%延ばしました。福祉保健費は六四五億円を増額し都政史上初めて一兆円台に乗せました。予算を三%動かすだけで、これだけのことができるのです。
たとえば、国保料(税)一世帯五千円と、介護保険・後期高齢者医療の保険料を一人五千円軽減という「保険料軽減三点セット」を実現します。
特別養護老人ホームや認可保育園の整備促進、都営住宅の新規二千戸建設なども進めます。木造住宅耐震化改修助成や東部低地帯の堤防の耐震化などを大幅にふやします。
公明党はパフォーマンスなどと攻撃しますが、都議会には、知事提案ならなんでも無条件に賛成と言う立場ではなく、率先して何よりも都民生活をまもるための施策の方向を示す責任があります。これこそが都民から負託された議会の重要な役割です。日本共産党の予算組み替え提案は、都議会が自民、公明、民主という事実上の「オール与党」体制のもとで唯一、都民の願いにこたえる方向を明確に示したものであり、今後とも都政改革の方向を示すとともに具体的な都民要求の実現に全力をつくすものです。
五、 民主党は築地市場の豊洲移転を容認。日本共産党は市場会計から豊洲移転のための汚染対策工事費削除の修正案を提案
築地市場の豊洲移転という道に突き進んでしまったのは、石原知事が、四つの重大な誤りをおかしてきたからです。
第一は、東京ガスが、豊洲工場跡地の土壌汚染調査結果を発表していたにもかかわらず、生鮮食料品を扱う市場として最も重視すべき土壌汚染を軽視して、豊洲移転を発表したこと。第二は、土壌汚染再調査で、環境基準の四万三千倍のベンゼンが出たにもかかわらず、移転見直しをしなかったこと。第三に、都の土壌汚染対策が専門家から「絵に画いた餅」と酷評されているのに見直すことを拒否してきたこと。第四に、現在地再整備案を、都としてまともに検討してこなかったことです。本当に無責任です。だからこそ、多くの都民と関係者が、事態打開を都議会に期待していたのです。
ところが、「築地市場移転ノー」を公約にかかげた民主党までが、欠陥だらけの土壌汚染対策工事に六百三億円余をかける中央卸売市場会計予算に賛成しました。都立小児三病院廃止に賛成した公約違反につづく、まさに都民に対する重大な裏切りです。関係者の多くは、「できることなら現在地での再整備を」と言っています。現代の技術水準をもってすれば、現在地再整備は可能なのです。
わが党は、豊洲移転に反対し、食の安全・安心と関係業者の利益を守るために、ひきつづき全力をつくすものです。
六、 憲法否定、核開発推進の知事発言は許せない
石原知事は、本会議および予算特別委員会で、日本が海外で武力行使できないことに不満をあらわにし、憲法を破棄すべきだと主張しました。日本は核兵器を持ち発言力を強めよとの発言もくり返しています。武力をもって相手国に自国の意思を強制しようとすることは歴史の逆行であり、許されません。
日本共産党は北朝鮮政府の「ロケット」発射計画の中止を求め、声明を在中国北朝鮮大使館に届けました。国際社会はこれまで、国連安保理決議や六カ国協議の共同声明など、朝鮮半島の非核化にむけた外交努力を重ねてきました。知事の発言はこれらの努力に背を向けるものです。
しかも、知事の平和や歴史観にかんする特定の立場が、都政にもちこまれていることは見過ごせません。日本共産党は、都教委が独自に作成した日本史必修化の教科書「江戸から東京へ」で侵略戦争を美化していることをきびしく批判し、学校や生徒への押しつけはやめるよう求めました。
日本共産党は、日本の侵略戦争を美化し憲法を改悪しようとする策動と対決し、平和と民主主義をまもるために全力をつくします。
以上
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