中学英語スピーキングテストの中止を求める申し入れ
日本共産党都議団は本日、標記の申し入れを藤田裕司教育長に行いました。応対した藤田教育長は、「入試への活用にあたっては、可能な情報は開示していく」とこたえました。
★テストの中止を訴える(左から)大山とも子、とや英津子、原純子、里吉ゆみの各都議(2021.8.6)
2021年8月6日
東京都教育長 藤田 裕司 殿
日本共産党東京都議会議員団
中学英語スピーキングテストの中止を求める申し入れ
東京都教育委員会は、株式会社ベネッセコーポレーションと協定を結び、2023年春の都立高校入試から民間資格・検定試験を活用した「中学英語スピーキングテスト(ESAT-J、イーサット・ジェイ)」を導入するとしています。今年度は9月から11月にかけて、公立中学3年生全員を対象に、プレテストを実施する予定です。
このテストを入試に活用することについて、都民や保護者、関係者から、「試験対策にばかり関心が向き、英語スピーキング教育がゆがめられる」「塾での訓練で差がつきやすく、経済的な格差が入試に影響しやすくなる」「民間事業者によるテストと採点で、透明性が担保できない」などの懸念が示されています。
大学入学共通テストへの英語民間試験と記述式問題の導入については、文部科学省の「大学入試のあり方に関する検討会議」が7月8日、実現は困難だと提言し、文部科学省は同30日、正式に導入断念を発表しました。提言は、正確な採点など諸課題の克服が困難だとしています。
日本共産党都議団は、ESAT-Jは公平性、中立性、信頼性に問題があると繰り返し指摘してきました。
テストの採点はフィリピンで現地スタッフが行いますが、記述式やスピーキングのように回答が無限にあるものは、採点者により採点に違いが生じることから、入試に使う場合は公平性が確保できるよう慎重な対応が必要です。ところが、都教委は都議会で採点方法について、「採点場所を訪問し、直接現地で確認する」と答弁したものの、新型コロナウイルス感染拡大により、いまだに訪問できていません。また、フィリピンで採点を行う組織や経営形態、契約関係、採点者の人数、採点方法等の情報を非公表とし、公平に採点できるかどうかの客観的情報を都民に示そうとしません。
ESAT-Jがベネッセという教材販売会社の民間試験として行われることも重大な問題です。都教委は、ベネッセが家庭向けに販売しているスピーキング教材は「本テストの関連教材にはあたらない」との見解を示しました。しかしベネッセがESAT-Jで得たノウハウを自身の教材に反映させることは容易に想像されます。「『進研ゼミ』などベネッセの教材をやっておけば有利だと考える」と保護者らが指摘するなど、公平性、中立性に疑念があります。
ベネッセのサイトに個人情報や顔写真を電子データで登録させることについても、かつて同社で情報漏洩事件があっただけに、抵抗を感じる保護者や都民も少なくありません。今年度は3月末でデータを消去するということですが、今後入試に活用するとなれば、後々検証できるようにデータの保管が必要となり、その扱いが懸念されます。
さらに、都立高校入試では、障害のある生徒や不登校の生徒などへの十分な配慮が必要ですが、その検討や検討過程の都民への公開も不十分です。
都教委がスピーキングを含めた英語力の育成を重視するなら、テストによる評価や入試への導入よりも先に、生徒がスピーキング力を養える教育環境の整備を行うべきです。現状では少人数授業といっても、都教委は2学級を3つのグループに分ける「2学級3展開」で、26~27人での授業を基本にしています。せめて1学級2展開を認めて、20人以下で授業ができるようにしてほしいという要望が、かねてから上がっています。小学校は国において5年かけて35人学級にすることが決まっていますが、中学校はこうした少人数学級を進める計画もありません。
さらに今年度のプレテストについては、コロナ禍が長引き、1日当たりの新規感染者数が5000人を超え、延期を決めた昨年よりも状況が悪化しています。感染力の強いデルタ株が広がるもとで、スピーキングテストにより、室内で生徒がマイクに向かって一斉に話す状況をあえて作り出すことに、感染防止の観点から懸念があります。昨年の3か月にわたる一斉休校による学習の遅れも十分に取り戻せていない状況にもかかわらず、授業時間を割いてテストを行うことにも、疑問の声が上がっています。加えて、ESAT-Jの登録をはじめとする準備作業を教員が行うことになっており、コロナ対策で多忙ななか、さらなる業務を教員に負わせていることも問題があります。
よって日本共産党都議団は、以下の点を申し入れるものです。
- 中学英語スピーキングテスト(ESAT-J)の高校入試への活用は中止すること。
- コロナ禍のもと少なくとも、今年度のテストの実施は中止し、来年度以降のスケジュールも延期すること。
- フィリピンにおける採点方法や採点者の身分や資格、人数をはじめとする情報を公開すること。
- 英語における少人数授業は、現在の2学級3展開(2つの学級を3つのグループに分ける)でなく、1学級2展開を基本とすること。
- 中学校の少人数学級を都独自に早急に実現すること。
以 上