文書質問 革靴履物産業の振興対策について 斉藤まりこ(足立区選出)
2024年第二回都議会定例会
文書質問趣意書
提出者 斉藤まりこ
質問事項
一 革靴履物産業の振興対策について
答弁
一 革靴履物産業の振興対策について
経産省が2022年にまとめた「履物産業を巡る最近の動向」によれば、革靴の出荷額と事業所数の推移は、ピーク時である1991年に比べて、出荷額は約8割、事業所数は約7割減少しています。国内生産が減少する一方で輸入は増加し、輸入浸透率は60%程度にまで上昇しています。同年の履物協議会のアンケートでは、50年近い熟練労働者は半数となるなか、年収200万円台以下が80.2%で、300万円台以下の合計は87.1%を占めるという状況で、他産業との格差もいっそう拡大しています。
1 革靴履物産業の厳しい状況は、1986年にそれまでの輸入制限措置から、関税割当(TQ)制度に移行されてから外国製革靴の輸入が増え続けたことや、さらにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)やEUとのEPA(経済連携協定)の強行など、国の政策によって生み出されていることについて、どう認識していますか。
革靴履物産業は東京の地場産業、ものづくり産業として、重要な役割を果たしてきましたが、こうした政策の影響で、大きな打撃を受けてきました。さらに2019年からの消費税増税と現在の物価高騰のなかで、事業の継続は危機的な状況にあります。
2 「東京都革靴製造業に関する家内労働実態調査」の結果では、最低工賃が改正されても低工賃で、若い人が離れて、後継者が育たないという切実な声も示されています。「私の家でも息子は他の仕事になりました。何件も同じ職業の人も廃業してしまいました。皆無に近い状態です。先日都庁の方々が有機溶剤の関係で私共の家を訪れ職場見学されました。699円の製甲を見て低工賃におどろかれていました。若い方がこの仕事を続け、家族を持ち子供を育て学校に通わせる事など無理な事です。私もあと何年仕事ができるか心配です。そろそろ廃業を考えています。」
こうした声をどう受け止めていますか。工賃の抜本的な改善と革靴履物産業への財政支援が必要ですが、いかがですか。
革靴履物産業で働く方々は、「家内労働者」や工場に通う「通い職人」として、使用関係においては個人自営業者に位置付けられて、労働者としての基本的権利が奪われ、無権利・無保障があたりまえという状況におかれています。こうした無権利労働の解消について、人権問題として位置付けて対策を行なうことが必要ですが、見解を伺います。
3 在宅形態の労働者について、賃金労働者と平等な待遇を促進することを定めたILOの労働条約第177号に政府が批准するように求めるべきですが、いかがですか。
4 長期化する物価高騰、メーカー企業の業績不振による失業と半失業、仕事量の大幅ダウンのなかで、社会保障、雇用保険からも除外されている革靴履物産業の従事者に対しては特別の手立てが必要ですが、都の認識を伺います。
5 都として、ILO第177号条約の立場にたって、家内労働対策を抜本的かつ具体的に見直し、履物の家内労働者の仕事の確保と技術継承、低工賃・長時間労働の解消、仕事の打ち切り防止、社会保障の適用、老後保障の確立や健康対策の充実など、総合的な対策を必要な財政措置をとって実施するべきですが、いかがですか。
6 深刻化している靴履物工労働者の失業と半失業時(短期または長期の仕事の打ち切り、ひま場等)における救済対策について、東京都として「失業手当」のような給付金支給を行うことが求められています。短期または長期のひま場時の対策として、「靴履物工暇場対策共済制度」(仮称)の必要性についてどう認識していますか。これらの施策を東京都としてただちに実施するべきですが、いかがですか。
7 東京都が革靴産業の仕事情報として、靴の加工の求人情報を提供していますが、その「作業形態」のなかに、「通い」という記載があります。「通い」とは具体的にどんな勤務形態のことですか。また現在、東京都には「通い」の作業形態の方がどのような業種に何人いるのかお答えください。
8 靴加工の工場などに通う職人と、会社に通う一般の労働者の勤務形態の違いについて、都としてどのように認識しているのか伺います。
9 一般の労働者と違って、社会保障や雇用保険、休暇制度などが適用されず、無権利状態になっている「通い職人」について、人権の問題と位置付けて、対策を行うこと、一般の労働者と同様の権利を認めていくことが必要ですが、見解を伺います。
10 都は、革靴製造の技術者育成と技術者の技能向上について、城東職業能力開発センター台東分校において訓練を行なっているということですが、過去5年間の実績を伺います。
また、その取り組みの充実を図ると同時に、その後の業界での定着と課題について調査を行なうべきですが、いかがですか。
11 革靴履物産業を地場産業として発展させてきた浅草周辺では、現在ではインバウンド需要が増し、着物を着て散策したり、撮影をする外国人旅行客も増えています。こうした機会を捉えて、日本の伝統的な履物の魅力を発信し、東京のものづくりの発展につなげていくことが重要ですが、都の認識を伺います。
12 革靴履物産業で働く方々からは、浅草を中心とした地域に「靴履物産業振興会館」(仮称)を設置して、日本の伝統的な履物や、皮革製品のPR、資料展示等としての機能を設けて、国内外への情報発信センターとすることを求めています。検討をすすめることを求めますが、いかがですか。
13 東京都の革靴の歴史は150年以上です。その長い間、職人が支え発展させてきました。こうした歴史、技術を継承させていく上でも、東京の革靴をブランド化することは重要です。また、都の伝統産業としての認定を検討すべきですが、それぞれ認識を伺います。
2024年第二回都議会定例会
斉藤まりこ議員の文書質問に対する答弁書
質問事項
一 革靴履物産業の振興対策について
1 革靴履物産業の厳しい状況は、1986年に関税割当制度に移行されてから外国製革靴の輸入が増え続けたことや、さらにTPPやEUとのEPAの強行など、国の政策によって生み出されていることについて、どう認識しているか伺う。
回答
平成30年12月に発効したCPTPP協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)及び平成31年2月に発効したEUとのEPA(経済連携協定)については、発効後11年目又は16年目に皮革関連品目の関税を全て撤廃する内容が盛り込まれており、その影響が懸念されます。そのため、国に対して皮革関連産業の現状を踏まえた対応等を要請しています。
質問事項
一の2 「東京都革靴製造業に関する家内労働実態調査」の結果における声をどう受け止めているか。工賃の抜本的な改善と革靴履物産業への財政支援が必要と考えるが見解を伺う。また、革靴履物産業で働く方々は、個人自営業者に位置付けられ、無権利・無保障があたりまえという状況におかれている。こうした無権利労働の解消について、人権問題として位置付けて対策を行なうことが必要だが、見解を伺う。
回答
都では、家内労働者の労働条件の向上のため、東京都同和問題懇談会答申、家内労働法及び家内労働対策研究会議答申を踏まえ、家内労働対策を総合的・体系的に実施しています。
具体的には、家内労働法についての普及・啓発、家内労働相談員による巡回相談、仕事情報の提供、家内労働者融資、労働衛生環境改善助成、傷病共済制度の運用等の事業を実施しています。
質問事項
一の3 在宅形態の労働者について、賃金労働者と平等な待遇を促進することを定めたILOの労働条約第177号に政府が批准するように求めるべきだが、見解を伺う。
回答
都は、在宅形態の労働に関する条約であるILO第177号の諸規定を家内労働者に適用することを国に対して毎年要望しています。
質問事項
一の4 長期化する物価高騰、メーカー企業の業績不振による失業と半失業、仕事量の大幅ダウンのなかで、社会保障、雇用保険からも除外されている革靴履物産業の従事者に対しては特別の手立てが必要だが、都の認識を伺う。
回答
家内労働相談員が委託者に対して、巡回又は文書で仕事情報の提供を依頼し、得られた仕事情報を問合せのあった家内労働者に対して、提供しています。
質問事項
一の5 都として、ILO第177号条約の立場にたって、家内労働対策を抜本的かつ具体的に見直し、履物の家内労働者の仕事の確保と技術継承、低工賃・長時間労働の解消、仕事の打ち切り防止、社会保障の適用、老後保障の確立や健康対策の充実など、総合的な対策を必要な財政措置をとって実施するべきだが、見解を伺う。
回答
家内労働相談員が、仕事の情報提供や作業環境改善等労働安全衛生に関する啓発、労災保険の特別加入手続きの案内、家内労働法に関する認識と理解を深めるための普及啓発などを実施しています。
また、お住まいの自治体の高齢者相談窓口等の連絡先を掲載した資料を作成し、家内労働者からの要望に合わせて御案内することとしています。
質問事項
一の6 靴履物工労働者の失業と半失業時における救済対策について、都として「失業手当」のような給付金支給を行うことが求められている。「靴履物工暇場対策共済制度」(仮称)の必要性についてどう認識しているか、これらの施策を東京都としてただちに実施するべきだが、見解を伺う。
回答
都は、家内労働者の負傷・疾病による休業時や仕事が途切れた際の生活不安を解消するため、家内労働者の雇用保険への特別加入を認めるよう、法改正を国に対して要望しています。
質問事項
一の7 都が、靴の加工の求人情報を提供しているが、その「作業形態」のなかに、「通い」という記載がある。「通い」とは具体的にどんな勤務形態のことか伺う。また現在、東京都には「通い」の作業形態の方がどのような業種に何人いるのか伺う。
回答
東京都内の革製履物製造を営む事業所に通っている靴職人の方を「通い」と捉えており、その形態は、個々の案件ごとに家内労働法、労働基準法いずれの適用を受けるか個別に判断されるものと認識しています。
都は、「通い」も含む靴・履物産業に従事する家内労働者の方々の実態について、家内労働相談員による巡回相談等で把握しています。
質問事項
一の8 靴加工の工場などに通う職人と、会社に通う一般の労働者の勤務形態の違いについて、都としてどのように認識しているのか伺う。
回答
個々の案件ごとに家内労働法、労働基準法いずれの適用を受けるか個別に判断されるものと認識しています。
質問事項
一の9 一般の労働者と違って、社会保障や雇用保険、休暇制度などが適用されず、無権利状態になっている「通い職人」について、人権の問題と位置付けて、対策を行うこと、一般の労働者と同様の権利を認めていくことが必要だが、見解を伺う。
回答
都は、「通い」も含む靴・履物産業に従事する家内労働者の方々へ支援を行っています。
質問事項
一の10 都は、革靴製造の技術者育成と技術者の技能向上について、城東職業能力開発センター台東分校において訓練を行なっているが、過去5年間の実績を伺う。また、取り組みの充実を図ると同時に、業界での定着と課題について調査を行なうべきだが、見解を伺う。
回答
城東職業能力開発センター台東分校の求職者向け訓練の入校者数は、令和元年度から令和5年度まで毎年21名です。在職者向け訓練の受講者は、令和元年度272名、2年度122名、3年度195名、4年度218名、5年度257名となっています。
また、訓練の一環として靴関連の事業所でインターンシップを実施するなど、業界との連携を図っています。
質問事項
一の11 浅草周辺では、インバウンド需要が増し、着物を着て散策したり、撮影をする外国人旅行客も増えているが、こうした機会を捉え、日本の伝統的な履物の魅力を発信し、東京のものづくりの発展につなげていくことが重要だが、都の認識を伺う。
回答
革靴履物産業に関する情報発信を効果的に行うため、都は、国内外の展示会への出展や販路開拓などを支援しています。
質問事項
一の12 革靴履物産業で働く方々は、「靴履物産業振興会館」(仮称)を設置して、日本の伝統的な履物や、皮革製品のPR、資料展示等の機能を設け、国内外への情報発信センターとすることを求めている。検討をすすめることを求めるが、見解を伺う。
回答
現在、皮革技術センター台東支所において、事業者への技術支援や皮革製品の資料展示等を行っています。
質問事項
一の13 都の革靴の歴史は150年以上で、長い間、職人が支え発展させてきたが、こうした歴史、技術を継承させていく上でも、東京の革靴をブランド化することは重要。また、都の伝統産業としての認定を検討すべきだが、それぞれ認識を伺う。
回答
東京都産品のイメージ向上やブランド力の強化を図るため、都は、国内外の展示会への出展やアンテナショップ等の設置・運営などを支援しています。