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■ 議会での質問  日本共産党東京都議団


2003年第4回定例会 文書質問趣意書

木村 陽治(葛飾区選出)

子どもの安全と東京の治安について

 子どもの安全と東京の治安について質問いたします。
 まず、治安対策を考える場合、なぜ今日の日本で犯罪が激増しているのか、その背景をつかむことが必要です。平成14年版法務省「犯罪白書」によれば、1996年以降の5年間で一般刑法犯(交通犯を除く刑法犯)として検挙された人のうち、職業をもっているか否かを分析した結果、「有職者」の増加率は2%、無職者(学生、主婦、年金生活者を除く)の増加率は41%となっています。
 つまり、犯罪の急増の最大の原因は、近年の失業者やリストラなど経済的・社会的要因であり、これまでも一般的には犯罪の背景には貧困や失業があると言われてきましたが、今日ほど、直接的にあらわとなっているときはないと言えます。さらに、痛ましいのは、強盗、障害、恐喝など暴力的9罪種についての検挙者増加率が50代で100% 2倍、60代で159% 2.5倍となっており、暴力的9罪種の検挙総数の全体では39%増ですから、ここにはリストラ、失業、再就職の困難にあえぐ中高年の実態が、くっきりと反映されています。
 また、暴力的9罪種+殺人の罪種による成人検挙者のうち前科の有無の内訳は、前科なしが65%増、前科ありが30%増となっており、これまで犯罪とは無縁だった人たちが、犯罪者となっていく傾向が強く、あらわれていることも重大です。
 たしかに、治安の悪化の要因には、来日外国人犯罪の増加や、地域社会の犯罪抑止機能の低下など、さまざまな問題があげられますが、都がなすべき治安対策の根幹には、まづ都政が犯罪の予防のために不況など経済情勢や社会不安などから都民のくらし、営業を守ることに全力をつくすという立場を据えることが必要ではないでしょうか。基本的な認識を問うものです。
 さて、こういう社会状況のなかで子どもの安全を守る地域社会をどうつくるか、ということはきわめて重要な課題です。なぜなら、ストレスと社会不安に追いつめられた人が弱者への攻撃をはけ口に自己を救済しようとする傾向がつよまり、その場合、そのはけ口が子どもにむけられる可能性がつよまるからです。
 子どもが地域のなかで、どのような犯罪の危険に遭遇しているかを都市計画の立場から調べている千葉大学の中村攻(おさむ)教授によれば、警察や行政当局には、子どもが万引きしたり、シンナーを吸ったりした犯罪を犯した資料はあっても犯罪の被害者としてどんな危険にあったか、という資料は全くないということです。そこで、中村教授は、子どもに安全なまちづくりをどう進めるかという必要から、自ら首都圏を中心に小学校4年生から6年生の子どもたち15000人以上にアンケートを送り調査したのです。アンケートは、学校の先生や親たちの協力を得て実施されていますが、子どものプライバシーを守る観点から封筒を子どもたち自身が封印して回収されたものだそうです。
 それによると、中学生になるまでのあいだに、なんらかの犯罪に巻き込まれる危険に遭遇した経験をもつ子どもの割合は、全体の4割程度となっており、人口流動の激しい地域では5割を超えています。被害のうち、粗暴犯や風俗犯といった直接身体に危害を加えられる被害が全体の55%をしめ、窃盗犯は45%となっています。女子では「変な人に追いかけられた」「男の人に体を見せられた」など性に関わる犯罪に多く合い、男子は暴行、恐喝・脅迫など暴力にかかわる犯罪に多く遭遇しています。窃盗は、男子、女子かかわりなく高い比率をしめています。「青年期になって、平気で自転車など他人の所有物を失敬する若者の出現は、彼ら自身が子どもの頃に、金品を盗まれた被害者体験をもつことと無縁ではないでしょう」と中村教授はその著書のなかで述べています。
 中村教授の調査で注目すべきは、この他にも第1に被害を受けるもっとも多い時間は午後3時頃から5時頃までであること。第2に被害の発生する場所は大人たちが安全と考えている昼間の住宅街や公園などであること。第3に、加害者は「よく見かける人」「たまに見かける人」ではなく圧倒的に「見かけたことがない人」であること、また「高校生ぐらい」が1割、「老人」が1割程度で、あとは「おとな」となっており、子どもへの犯罪の四分の三が「見たことがない成人」によって引き起こされていることが伺えます。東京を中心とする都市の子どもたちは、いま親がはたらきに出ている間に、親の世代では想像もつかないほど危険な環境で生活しているといえます。
 葛飾亀有地域では、この3年間、学校、PTA、町会、青少年委員、保護司など、子どもの健全育成にかかわるすべての団体が協力し合い、中村教授の協力のもとで、子どもたちへのアンケートをおこない、これをもとに、危険な目にあった場所を地図におとして、歩いて調査をし、解決策を話し合い、行政、警察と連携して、「子どもが犯罪の被害者にならない街をどうつくるか」をめざしてのとりくみがすすめられています。
 この亀有地域のとりくみは、治安対策を住民が主体となって解決する上で、都政が生かすべき、いくつかの重要な視点があります。そのひとつは、地域の犯罪の実態を子どもたちに教えてもらうと言うことです。それが子どもたちへのアンケートです。その結果、大人たちは、改めてわがまちにひそむ危険を子どもの目線で知り、生け垣を低くして公園の死角をすくなくしたり、マンションのベランダに向いている南側より、北側にある公園は犯罪が多いことが分かり、花壇の水やりを子どもたちの登下校時にあわせておこなうなどの解決策を生みだしたのです。
 二つは、これがあくまで地域住民の自主的なとりくみとしておこなわれているということです。上から行政が組織をつくり、行政の長がその頂点にたつというものではなく、行政と警察はそれぞれの分野の専門家として協力するパートナーとして、住民のとりくみをバックアップするという立場です。住民自身が、子どもたちから教えられた危険箇所を歩き調査し、その解決策をだしあい、それをさらに地域全体でもちより、そのうえで、まとめて行政や警察と懇談する、というとりくみは地域からの自主的な自発性があってはじめてながつづきします。
 もちろん、フィールドワークから具体的政策をつくり、行政につないでいくなどということに、不慣れな住民の自発性をひきだすためには、生涯学習の専門家の支援が必要です。亀有地域でのとりくみも、葛飾区立亀有社会教育会館での「この町で共に暮らし共に育つ講座」としておこなわれていることが三つ目の特徴です。
 一方、石原都政におけるこの問題についてのとりくみはどうでしょうか。知事はさきの本会議で治安対策の強化、子どもが関係する犯罪の抑止、及び、安全安心のまちづくりについて多くの言葉を費やして所信を表明しましたが、そこでは子どもはもっぱら犯罪をおかす者であり、これを罰し、教育し、矯正すべき対象としてとらえられており、現代の苛酷な社会のひずみから生れる危険から、いかに子供を守るかという視点はありません。あげられた対策も監視カメラと万引き対策であり、また、対策の具体化を急ぐとして引用されている「子どもを犯罪にまきこまないための方策を提言する会」の緊急提言の対策も、子どもの深夜外出規制、有害図書の販売防止などいわば権力的な規制策が主なものになっています。
 知事は、自らが会長となって60の関係団体とともに「安全・安心まちづくり協議会」を設立しましたが、行政が上から声をかけて権力的な規制策を実現するための住民組織をつくっても、はたして地域再生につながる都民の自助・共助の精神が発揮されるのかどうか疑問を抱かざるを得ません。
 地域の犯罪を防止するコミュニティの再生・強化のための住民のながつづきするエネルギーをひき出すためには、あくまで住民の自主性を尊重し、行政がこれを支援することが重要です。ところが、都がこうしたコミュニティ行政から手を引き、生活文化局のコミュニティ文化部を廃止してからすでにかなりの歳月がたちます。都は、コミュニティづくりの支援はもっぱら区市町村の役割だとしていますが、近年の急激な治安状況の悪化ひとつとっても、コミュニティづくりを区市町村まかせにするのではなく、大都市ならではコミュニティづくりの探求がもとめられる分野はあり、この際都としてのコミュニティ行政を再構築する必要があるのではないでしょうか。答弁をもとめます。
 また、こどもたちが公園など地域での日常生活で多くの危険に遭遇している現実からみて、都がかつて実施していた「子どもの遊び場調査」などを復活することも必要ではないでしょうか。さらに、葛飾区でとりくまれている社会教育施設を軸とした、地域が自主的におこなう子どもたちの安全な環境づくりを普及し、都として支援する仕組みをつくるべきではないでしょうか。それぞれ答弁を求めます。
 さらに、渋谷や新宿、池袋など、青少年が犯罪にまきこまれる危険のおおい場所で、生活指導員、教育経験者などによる、常時体制でのパトロールや生活指導の強化など、都としての対策を強めていくことも重要です。答弁をもとめます。
 さて、地域で、子どもを犯罪から守っていくためには、交番・駐在所の役割が重要であることはいうまでもありません。ところが、近年、都民からの要望が強いのは、お巡りさんのいない空き交番をなくしてほしい、というものです。
 そこでわが党は最近、全都に存在する交番・駐在所の数の40%にあたる498ヶ所の交番・駐在所の調査を行いました。その結果は、警察官常駐301ヶ所(60.4%)、一時常駐99ヶ所(19.9%)、空き交番98ヶ所(19.7%)でした。これを23区地域と多摩地域を比較してみると、23区が常駐63.2%、一時常駐と空き交番の合計が36.8%であるのに対し、多摩地域では常駐51.7%、一時駐在と空き交番の合計が48.3%という結果でした。もとより、すべての交番・駐在所に足を運んだわけではありませんでしたので正確な数値ではありませんが、およその傾向を伺うことができます。
 この調査で痛感されたのは、住民の立場から頼れる交番にしてほしいという警察活動の見直しと空き交番解消への都民要望の強さでした。クルマのキーを拾ったので届けようと交番を訪ねたら留守で、次の交番も無人、三ヶ所目の交番に行ったら「パトロール中」で電話先が書いてある立札があり、しばらく待ってやっと届けたという事例や、突然強風が吹いたために歩行中の住民同士にささいなトラブルが発生、近くの交番へ行ったらハイテク交番という名の空き交番、ボタンを押すとテレビ電話で「相談したいことがあれば警察署まで来い」との対応事例など、交番と都民の関係のさまざまな実情も明らかになりました。
 地域と警察の信頼関係なしに、地域の防犯活動は成功しないことは明らかです。
 そこで伺います。予算や人員の配置を、公安中心から刑事・防犯活動中心に切りかえ、交番やパトロールなど現場体制を抜本的に強化すべきではないか。
 また、全都の空き交番の実態調査をおこなうとともに、交番の警察官の常駐化を行うべきと思うがどうか。
 それぞれ答弁を求めます。

答弁書

質問事項
一 子どもの安全と東京の治安について
1 治安の悪化の要因には、来日外国人犯罪の増加や、地域杜会の犯罪抑止機能の低下など、さまざまな問題があげられるが、都がなすべき治安対策の根幹には、都政が犯罪の予防のために不況など経済情勢や杜会不安などから都民の暮らし、営業を守ることに全力をつくすという立場を据えることが必要ではないか。基本的な認識を伺う。

回答
 東京の治安を回復するためには、犯罪の取締りの強化はもとより、街頭や住宅などにおける防犯対策、学校教育の充実、地域・学校・家庭等による相互協力の強化、更には都民の経済生活面等における不安の解消など、都民生活にかかわる様々な面で、総合的に取組を進めていかなければならないと考えています。

質問事項
一の2 地域の犯罪を防止するコミュニティの再生・強化のための住民のながつづきするエネルギーをひき出すためには、住民の自主性を尊重し、行政が支援することが重要である。コミュニティづくりを区市町村まかせにするのではなく大都市ならではのコミュニティづくりの探求がもとめられる分野はあり、都としてのコミュニティ行政を再構築する必要があるのではないか。見解を伺う。

質問事項
一の3 こどもたちが公園など地域での日常生活で多<の危険に遭遇している現実からみて、都がかつて実施していた「子どもの遊び場調査」などを復活することも必要ではないか。見解を伺う。

回答
 子どもの遊び場に関する調査は、東京都青少年問題協議会(昭和41年7月25日)において、東京都の遊び場は絶対的に不足しており、増設を図ることが緊要との意見具申がなされたことを受けて、昭和42年から「東京都の遊び場」の年次調査として実施されてきました.。
 現在は、調査開始時に比べ都立公園、区市町村立公園共に大幅に増設されてきたため、平成14年から「都有地の一時開放による幼児・児童の遊び場並びに青少年及び老人の運動広場等の設置に関する要綱」に基づく「都有地の一時開放による遊び場」に限定して調査し、情報提供しています。
 今後とも、地域の遊び場確保に資するため、「都有地の一時開放による遊び場」の情報提供に努めてまいります。
 なお、ご指摘のように子どもたちが公園など地域での日常生活で多くの危険に遭遇している現実がありますが、都においては、昨年の9月から10月にかけて、都の管理する施設、公園等の緊急安全総点検を実施するとともに、区市町村に対し、それぞれの管理する公園を含む諸施設の安全総点検と安全な環境づくりを促したところです。

質間事項
一の4 葛飾区で取り組まれている杜会教育施設を軸とした、地域が自主的におこなう子どもたちの安全な環境づくりを普及し、都として支援する仕組みをつくるべきではないか。見解を伺う。

回答
 社会教育施設を軸とした、地域が自主的に行う子どもたちの安全な環境づくりについて、都教育委員会では、平成15年12月19日、「子どもを犯罪から守るための『地域の教育力』とは 〜危険のない街をみんなでつくるために〜」と題し、葛飾区社会教育館の「子どもを犯罪から守る講座」の取組を政策的・現代的な課題として区市町村職員等研修で取り上げたところです。
 都教育委員会としては、今後とも、区市町村や地域の団体が実施する、こうした特色ある社会教育事業の取組を研修会で事例紹介するなど、子どもの安全な環境づくり活動の普及・啓発に向け、情報提供に努めてまいります。

質問事項
一の5 渋谷や新宿、池袋など、青少年が犯罪にまきこまれる危険の多い場所で、生活指導員、教育経験者などによる、常時体制でのパトロールや生活指導の強化など、都としての対策を強めていくことも重要である。見解を伺う。

回答
 繁華街などで子どもが犯罪に巻き込まれる例が依然として数多く見られますが、15年10月に出された「子どもを犯罪に巻き込まないための方策を提言する会」からの緊急提言では、街頭補導や盛り場パトロールを積極的に行うことが提案されています。
 都内の繁華街などでは、これまでも警察官と少年補導員、教員などによる街頭補導や、NPO・ボランティア団体によるパトロール活動が行われてきましたが、今後は、こうした繁華街を抱える関係区市の取組も促しながら、警視庁、学校、ボランティア団体等と協力して、子どもが犯罪に巻き込まれないための対策を進めてまいります。
 また、青少年が犯罪に巻き込まれる危険をできるだけ少なくするための有害環境の除去も必要であり、いわゆるブルセラ、生セラ、スカウト、有害図書といった問題にも新たな対策を進めてまいります。

質問事項
一の6 地域で、子どもを犯罪から守っていくためには、交番・駐在所の役割が重要であることはいうまでもない。近年、都民からの要望が強いのは、空き交番をなくしてほしい、というものである。予算や人員の配置を、公安中心から刑事・防犯活動中心に切りかえ、交番やパトロールなど現場体制を抜本的に強化すべきではないか。見解を伺う。

回答
 警視庁では、複雑多様化する犯罪情勢に的確に対処するため、これまでも、適正な予算執行及び人員配置に努めてきました。
 平成15年には、業務の見直しによる人員の再配置等により、ひったくり等の街頭犯罪の検挙・抑止を目的として、4月に「遊撃自動車警ら隊」を編成し、街頭犯罪が多発している地域、時間帯における集中的なパトロールや検挙対策を強化したほか、凶悪化、集団化が著しい最近の少年事件情勢等に的確に対処するため、10月に「非行集団特別捜査隊」を編成し、捜査、取締体制を強化してまいりました。
 さらに、平成16年4月1日からは、子供を犯罪の「加害者にさせない」、「被害者にさせない」ため、学校、地域と警察署の連携強化のためのパイプ役として、再雇用職員等をスクールサポーターとして配置するほか、交番機能の強化を図るため、交番相談員の大幅な増員を予定しています。
 警視庁といたしましては、あらゆる警察事象に対応するため、今後も適正な予算執行及び人員配置に努め、都民生活の安全と安心の確保を図ってまいります。

質問事項
一の7 全都の空き交番の実態調査をおこなうとともに、交番の警察官の常駐化を行うべきと思うが、見解を伺う。

回答
 平成16年1月末現在、警視庁管内には939か所の交番があり、このうち約8割の交番は、警察官を常時配置して運用しております。いわゆる「空き交番」につきましては、警視庁では、勤務員の配置がない交番と、勤務員が不在がちになる交番の約200か所が、これに該当するのではないかと考えております。
 次に、交番の警察官の常駐化についてですが、警視庁では「交番には常に警察官がいて欲しい」という地域の方々の強いご要望に応えるため、従来から、地域の犯罪情勢や警察事象等に応じて、犯罪多発時間帯に必要な人員を配置するなど弾力的な運用を図っているほか、
・交番相談員の配置による支援機能の強化
・交番の都市型駐在所への転換による人員の効率的配置
・事件・事故等の対応のため、一時的に勤務員が不在となる交番への隣接交番勤務員、パトカー勤務員による立寄り・駐留警戒などの施策を講じております。
 なお、警視庁では、犯罪情勢や人口の推移に加え、地域の方々のご期待に沿うように、平成15年9月に副総監を長とする「交番機能の強化方策検討委員会」を設置して、交番の新設や統合を含めた問題点について検討を進めており、いわゆる「空き交番」対策など地域警察全体の運営改善に努めてまいります。