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■ 議会での質問  日本共産党東京都議団


都議会第四回定例会文書質問趣意書

小松 恭子(北多摩第一選出)

一.東京都のハンセン病施策について

 私は本年第2回定例会で、ハンセン病施策について一般質問を行いました。その後、議会局の協力も得ながら、全国47都道府県のハンセン病施策の取り組みや知事の訪問状況、議会質問など調査しました。
 今回の調査をもとに、前回の質問と今回の調査をふまえ、今後の都のハンセン病施策の拡充を求めるものです。
 あの2001年5月の「ハンセン病国家賠償請求訴訟」全面勝利によって、原告の方々は人間の尊厳を取り戻し、それぞれの幸せを求めて歩める権利を確保しました。
 しかし、隔離政策によって受けた心の疵は深く、療養所内で暮らす方も、退所して地域社会で生活する方々も、心の痛みに耐えて生きています。
 現在、全国の療養所には3800人弱の入所者がいて、平均年齢78歳を数え、入所期間は平均五〇年近くになるとのことです。そして療養所を退所して社会復帰している方々は、厚生労働省情報では、1300名ですが、その内、裁判勝利後の退所者は約200名です。
 しかし、そのほとんどの方は、ハンセン病回復者であることを公にせず、故郷から遠く離れた土地で暮らしているのです。それは、家族や親戚が結婚や就職に支障を来たし、家業にも影響するからだということです。退所者は言うに及ばず、元患者であったことを隠してずっと暮らしています。中には、肩身の狭い思いをさせたくないとの配慮と、家族の破綻を恐れるあまり、子どもにも、結婚相手にも病気を隠し、明かしていない方もおります。このように、現状は、判決によってもたらされた理想とはほど遠い状況です。
 元患者の方々が、社会統合を実現していくために果たすべき国と地方自治体の責任は重大です。
 1923年に病原菌発見50周年を記念誌、フランスのストラスブールで開催された国際会議で「きわめて感染力の弱い感染症で、隔離乃至僻地の隔離妥当ならず」と世界各国へ患者の強制隔離を解くように勧告しましたが、日本では逆に、その8年後の1931年から法律を改定し、それまで家庭で療養していた患者の地域での治療を禁止し、全ての患者を療養所へ強制収容を開始したのです。全国の市町村役場に「らい病は恐ろしい伝染病」とで間を吹聴させ、パンフレットまで作って患者の密告を推奨したのです。
 「無らい県運動」の推進者は事実上地方自治体でした。
 その目的は、「らい」の存在を文明国の恥辱とし、「国辱病」を生む患者の絶滅を目的とした公衆衛生と無縁のものでした。このことに対し、熊本地裁の判決文は次のように述べています。
「わが国の絶対隔離政策は、戦前に確立された。そこでは、公衆衛生という見地からではなく、ファッシズムと結びついた国辱論、民族浄化論を思想的背景として徹底した患者の収容取締りが行われた。即ち、強制隔離を定めた旧法を制定し、ハンセン病が恐ろしい伝染病であるとの徹底した恐怖宣伝をしつつ、無らい県運動を推進し、未収容患者を次々と収容し、しかも厳格に患者と社会との交通を絶ったのである。
 この政策遂行過程において、一般の人々にはハンセン病は恐ろしい伝染病であるという誤った認識を与え、これまでなかった感染の恐怖というハンセン病に対する新たな差別偏見を作出・増強した」(第3章第1節より)
 この判決文を見れば、国都地方自治体の果たした加害責任は明瞭で、その修復の責務を負っていることに異論を挟む余地はないと思います。その加害を自覚した全国の知事は、いち早く1996年「らい予防法」の廃止後即刻に、また2001年の熊本地裁判決後に療養所へ直接赴き謝罪をしています。
 今回の調査によれば、全国47道府県の中で、33府県知事が療養所を訪れ、そのほとんどが謝罪の表明を行っています。特に、県内に療養所のある県知事はくり返し訪問し、数回から、最も多い熊本県知事は十三回も訪問しています。そしてこれら知事の多くが、当時の県議会の代表質問や一般質問に答えて、国家賠償訴訟の判決を高く評価し、地方自治体の最高責任者として、深い反省と謝罪の表明をしています。例えば、熊本県の潮谷知事は、「私たちは、この患者・元患者の方々へお詫びの気持ちを表すということ、これはもう本当に大事なことという風に、私も認識しております。」また、沖縄県の稲峰知事は「患者・元患者のお気持ちを察するところに心のそこから本当に心で持ってお詫びを申し上げるものでございます」、兵庫県の井戸知事は「一国の機関委任事務として法律の施行に当たってきた知事の立場として、心からお詫び申し上げたいと存じます」と、それぞれ述べています。
 しかし、残念ながら石原知事は、一度も、療養所を訪ねることなく、前回の私の質問に「都の責任においてすべきことがあって急に訪問しなければならない状況とは考えていない」と、現時点での全生園訪問を拒否されました。そして、「入所者の皆さまに対して、都としてすべきことはしてまいっております」と明言されております。
 そこで、改めて伺います。

Q1 .石原知事としては、あの2001年の熊本判決をどう受け止め、どう認識されているのでしょうか。また、地方自治体のトップとしての責任、反省や謝罪を求めるものですが、所見を伺います。

Q2 .石原知事が知事として公式訪問することの重み、都職員の一般訪問との違いなど、どのように認識されているのでしょうか。また、都職員が訪問していれば、知事の訪問は必要ないというのでしょうか。
 確かに国の施策であり、国の法律によって隔離政策で著しい人権侵害が行われたわけですが、「無らい県運動」という名のもとに、国と一体となって、隔離政策を推し進めてきた東京都の責任も免れないではありませんか。だからこそ、全国の県知事が、特に療養所のある知事は熊本県知事のように十三回も訪問しているのです。都内に療養所を有しながら、一度も訪問していないのは、東京の石原知事だけです。

Q3 .知事が、「都から国に取り次ぐべきことがあれば、その労を決していとうものではない」とおっしゃるなら、まずは、地元の全生園に足を運び、入所者の生の声をしっかり聞くことから始めるべきです。改めて、知事の訪問を心待ちにしている全生園への訪問を求めます。お答え下さい。
 第2回定例会の答弁で、都の職員が定期的に訪問して都としてすべきことはしているとのことでしたが、これですべきことはしていると言えるのでしょうか。
 今回の全国調査でも、全国46道府県は各々それぞれに様々な施策に取り組んでいる状況が明らかになっています。東京都も第2回定例会での回答や今回の調査回答にあるように、人権教育や講演会、啓発活動など、また都出身者の郷土訪問等取り組んでいますが、他県と比べても決して十分なものとは言えません。特に、入所者や退所者など元患者の方々への支援策に欠けます。
 都は、過去の責任を自覚し、快癒した入所者が対処を希望するときには、住宅、医療、介護、福祉的措置の速やかな対応を求めるものです。
 例えば、住宅問題では、最近起きている具体例として、私のところに相談に見えた「多摩全生園」入所者で70歳のご夫妻が対処を希望し、都営住宅を申し込みましたが、何回応募しても外れています。
 民間住宅は、どこでも高齢と重度障害のためことごとく断られ、社会復帰できずにいます。「住宅さえあれば、明日にでも対処できるのに・・」と悔しさをかみしめています。こうした壁に突き当たっている方々は、まだ他にも多くいらっしゃるとのことです。

Q4 .第2回定例会の答弁では、都営住宅の入居資格を50歳未満の単身者も可能としたとのことですが、具体的に50歳未満の入所者は存在していません。高齢者や障害者がほとんどの入所者の社会復帰に当たっての第一の支援は住宅提供支援です。全国では、熊本をはじめ何県かが、県営住宅の優先入居を実現、希望すればいつでも入居が認められています。東京都とはあまりにも異なります。「今後とも都営住宅への入居が適切に行われるよう努めてまいります」(同答弁)というなら、全生園退所者の都営住宅への優先入居制度を実施すべきです。答弁を求めます。
 東京都は、社会復帰された方々への医療も歴史的な経緯から国の責任において取り組むべきとしていますが、社会復帰した元患者への医療は、国にのみまかせるのでなく、せめて、都立病院ではどこでも、ハンセン病専門の医師を置き、元患者の方々が安心して医療が受けられるよう支援すべきです。
 ハンセン病治療経験のない民間医療機関ではなかなか治療してもらえない、結局は全生園まで来なくてはならないと嘆いておられます。この医療問題が解決しないと結果的には高齢化により療養所へ再入所する例が後を絶ちません。

Q5 .退所者への医療支援として都立病院への専門医の配置、民間医療機関への研修実施などにとりくむこと、医療費の無料化を実施すべきですが、所見を伺います。

Q6 .退所希望者は誰でも社会復帰できる生活全般の保障とともに、安定した社会生活が営める福祉制度の確立が求められています。国へ求めることとあわせ、都も独自の支援策を横断的に検討することを求めます。所見を伺います。

Q7 .その第一歩として熊本など他県がやっているようなハンセン病施策課などを設け、生活相談窓口の開設を求めます。所在地の東村山市とも相談し、市と一体となって気兼ねなく相談できる窓口の設置をおこない、M・S・WやS・W、時には弁護士など専門職の方々の派遣を求めるものですが、いかがですか。

Q8 .これまでのハンセン病の個人施策は東京都出身者に限って行われていましたが、全生園の方々は全て東京都民であり、出身地によって施策の対象から外すのは、重大な差別といわざるをえません。今後の支援策は、少なくとも全ての全生園在住者および元在住者を対象とすべきですが、答弁を求めます。
 大切なのは、国、自治体が過去の加害責任を自覚し、回復者の真の人権を取り戻すために力を尽くすことです。特に教育分野での取り組みが重要であり、都も、教育長が「学校教育におきましてさまざまな人権課題について認識させることは重要で」と答弁されていますが、実態は人権教育プログラムとしての学校教育変の中に、エイズなど一緒に2〜3ページの量で、指導事例を掲載しているに過ぎません。他県、例えば熊本県などは、ハンセン病副読本として冊子があり、小中、高それぞれ学年目標をたて、授業時間を割いて人権教育として位置づけています。

Q9 .都も、これから先進的な県に学び、学校教育での人権教育の一環としてハンセン病問題をしっかり位置づけ、ハンセン病副読本をつくることを提起します。
 これらハンセン病施策を都施策の中に位置づけるには、その予算に位置づけが都はあまりにも貧弱すぎます。今回の調査結果を見る限り、全国でも予算が突出しているのは、やはり県内に療養所を有する県です。16年度予算では、沖縄が3,477万2,000円、熊本が2,109万3,000円、大阪が1,824万円、岡山が1,389万5,000円となっています。

Q10 .これに対し、東京都の16年度予算は、282万3,000円(啓発事業を除く)で決して十分とは言えません。大幅な増額をすべきです。
 今、地元では、入所者、自治会と市、市民が一体となって「人権の森」として残して欲しいと、大きな運動が広がっています。最初は大木一本なかったこの園に、患者の方々が金を出し合い、一歩一本木を植え育て、今や3万本になっているのです。青々とした緑は、入所者の方々が丹誠込めて育てあげた木々なのです。

Q11 .国が勝手にしなさいというのではなく、入所者や市などと話し合い、その声を国に要望していく都としての努力をすべきと思いますが、答弁を求めます。

以上