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2011年第4回定例会文書質問趣意書 12月13日
あぜ上三和子(江東区選出)
知事の「破壊的教育改革」について
石原知事は第2回定例会の所信表明で「破壊的な教育改革を議論し発信する」と表明し、そのために「教育再生・東京円卓会議」を設置、11月16日に第1回会議を開催しました。知事の「破壊的教育改革」は、首長と教育行政のあり方からいっても、また知事が進めようとしている教育の中身からいっても看過することはできません。
まず、教育委員会制度と首長との関係について伺います。
教育にかかわる行政は、戦前、国家権力が教育を直接支配することを通じて国民を戦争に動員していったことへの反省から、戦後は首長から独立した機関である教育委員会が担当しています。
地方教育行政の組織及び運営に関する法律は、教育委員会と地方公共団体の長の職務権限を明確に分け、その第24条で地方公共団体の長の職務権限を、一 大学に関すること。二 私立学校に関すること。三 教育財産を取得し、及び処分すること。四 教育委員会の所掌に係る事項に関する契約を結ぶこと。五 前号に掲げるもののほか、教育委員会の所掌に係る事項に関する予算を執行すること。と規定しています。
Q、知事は、円卓会議を、教育委員会ではなく知事部局に設置しましたが、円卓会議は、地教行法第24条の長の職務権限のうち、どれにあたるのですか。
回答 教育再生・東京円卓会議は、東京から広く次代を担う人材の育成について議論しその内容を発信するものです。これは、知事としての当然の職務であり、地方教育行政の組織及び運営に関する法律を根拠とするものではありません。
知事は第3回定例会のなかで、「破壊的な教育改革といわれましたが、これはもうなかなか、幾ら教育庁のけつをたたいてもなかなか動きませんで、今日まだじくじたるものを感じておりますけれども、今度の円卓会議を一つのきっかけにして、東京からこそ、この停滞した日本というものを支え直す本物の人材というものを若者たちから育てていきたいなと思っております」と答弁しました。
Q、これは、本来教育委員会がおこなうべきことに対し、知事の思うように進まないから知事が直接推進していく、ということではありませんか。
回答 教育再生・東京円卓会議は、東京から広く次代を担う人材の育成について議論しその内容を発信するものです。
Q、教育委員会制度を設けている理由の1つが、首長への権限の集中を防止し、中立的・専門的な教育行政運営を担保するためであることへの、知事の認識を伺います。
回答 教育委員会は、地方自治法や地方教育行政の組織及び運営に関する法律等に基づき、教育行政を適正に執行する行政委員会として規定されています。教育委員会は一般的に政治的中立性や継続性、安定性の確保が必要とされています。
知事の進めようとしている教育の中身も問題です。
知事は今年2月の予算特別委員会で、元首相の中曽根康弘氏に「破壊的に日本の教育の改革をしてくれ」と言われたことにふれ、そのなかで、教育勅語にあるような「国民としての当然な国家に対する義務」を「小学校のころから刷り込みしませんと」と述べ、さらに「子どもたちに正しい価値観の刷り込みをするためのそういった教育を建言していきたい」と答弁しました。
Q、知事の考える「正しい価値観」と、教育勅語との関係について説明してください。
回答 世代や立場を超えて、いわば垂直に継承されるべき価値の基軸は、誰もがきちんと受け継いでいくことが必要です。かつて教育勅語がありましたが、文章そのものを今復活させても時代錯誤でしかありません。しかし、人間の規律、規範を掛け算の九九と同じように繰り返し暗唱させ、子供たちに身につけさせることが重要です。
Q、知事のいう「国民としての当然な国家に対する義務」とは、具体的にどんなことですか。
回答 国家、社会には人間同士の連帯が不可欠であり、他人への配慮や地域、国家に目を向け、進んで公に貢献する、志をもつ若者を育てることが必要です。
Q、特定の価値観を知事の考えで「正しい価値観」と決め、それを子どもたちに刷り込むことは、教育行政のあり方として認められるのですか。
回答 掛け算の九九と同じように繰り返し暗唱し人間の規律、規範を子供たちに身につけさせることは、当然に家庭でのしつけや学校での教育の中で行われるべきことです。
Q、人間のもつ価値観は多様であり、そのどれを選びとりどんな価値観を形成するかは、個人の自由に属することで、法律や行政が立ち入ってはならない領域と考えますが、所見を伺います。
回答 規律、規範などについては、当然に家庭でのしつけや学校での教育の中でしっかりと伝達していかなければならないものです。
特定の価値観について子どもたちに強制することができないのは当然ですが、なかでも知事の持ち出した教育勅語は、当時の天皇すなわち国家権力のために身を捧げろと子どもたちに教え、国家による命令に無批判に従う国民を育てる役割を果たしました。これは国民主権や民主主義とは相容れない考え方であり、その価値観を子どもたちに刷り込むなどというのは、日本国憲法を遵守すべき首長にあるまじき主張です。
次に、石原知事の歴史観と破壊的教育改革の関係について伺います。
Q、知事は第2回定例会の所信表明で、「戦後わが国は、正当な歴史を教えることもせず」と述べました。知事のいう「正当な歴史」とはどんな歴史ですか。
回答 教育においては、近代史、現代史を含め、我が国の歴史として存在した事実を正しく伝えることが必要です。
Q、また知事は9月の定例記者会見で、日本の教育の何を破壊すべきと考えるかと問われ、「決まっているじゃないですか。戦争に対する史観というものを一方的に強制してきたんだから」と答えています。そして第2次世界大戦で日本が植民地を解放したなどという自己の歴史観を披露しました。円卓会議のなかでも知事は、「あの戦争があったから、あなた方の植民地は解放された」という発言に拍手で賛意を示した旨の発言をしています。
「破壊的教育改革」は、知事のこうした歴史観の押しつけに目的があるのではないですか。
回答 教育再生・東京円卓会議は、東京から広く次代を担う人材の育成にっいて議論しその内容を発信するものです。
Q、時の首長が自己の歴史観にもとづく教育を求めることは認められるのですか。
回答 教育においては、近代史、現代史を含め、我が国の歴史として存在した事実を正しく伝えることが必要であり、特定の歴史観に基づく教育を求めるものではありません。
知事は、日本の戦争がきっかけになって植民地が解放されたなどと、日本の侵略戦争と植民地支配を美化し正当化しますが、その議論そのものが、今日の世界では通用するものではありません。
戦前、日本は植民地化や侵略による軍事支配を行ったアジアの各地で、残虐行為を行い、独立を求めて起ち上がった人を弾圧するなどの蛮行を働きました。
Q、戦後の世界政治と日本社会の大原則は、ドイツ、イタリアがヨーロッパで、日本がアジアで起こした戦争について、いかなる大儀もない侵略戦争だったという共通の認識の上に成り立っています。そして第二次世界大戦の悲惨な経験を通じ世界は、国家間の紛争の解決のために戦争をしかけることや、他国を侵略すること、戦争に勝った国が負けた国を自分のものにすることを認めない方向に、歴史を進めました。
知事は、こうした事実を否定したり歪めて描いたりする発言を繰り返していますが、それは歴史観の違いにとどまらず、日本国憲法とともに国連憲章にも明記された戦後の国際秩序の原点を否定することに他なりません。知事の見解を伺います。
回答 歴史には重層的、複合的な意味があり、歴史について様々な見方があるのは当然だと考えています。
Q、知事の歪んだ歴史観を教育に持ち込み、子どもたちに押しつけようとすることはやめるよう求めます。
回答 教育再生・東京円卓会議は、東京から広く次代を担う人材の育成にっいて議論しその内容を発信するものであり、歪んだ歴史観を子供達に押し付けるものではありません。
さらに知事は、「知力・体力・人間力を備え、自信と誇りを持って世界と渡り合える人材を育てるために」などと述べ、人材育成を強調しています。
Q、しかし教育の目的は、一人ひとりの人格の完成であり、国家や社会の特定の目的に適うような人材の育成ではありません。このことも、教育勅語に示された戦前の教育からの反省に立脚するものであり、この見地から憲法第26条は「教育を受ける権利」として、子どもの学習権、子どもが主体として学び成長する権利を保障しています。知事はどう認識しているのですか。
回答 教育再生・東京円卓会議は、知力・体力・人間力を備え、自信と誇りを持って世界と渡り合える人材の育成について議論しその内容を発信するものです。
Q、知事が「破壊的教育改革」、また円卓会議での議論を通じ、知事がふさわしいと考える価値観や歴史観を教えるよう求めたいという意思があることは明らかです。しかも第3回定例会の所信表明で知事は、できることから教育の現場で実行する旨を表明しているのです。これは教育内容への不当な介入にあたるのではないですか。
回答 教育再生・東京円卓会議では、東京から広く次代を担う人材の育成について議論し、教育再生の足がかりとなる具体的な意見やアイデアを導き出していきます。これは知事としての当然の職務であり、教育内容への不当な介入には当たりません。
Q、知事の「破壊的教育改革」を進めるための円卓会議は、直ちに中止することを求めます。
回答 教育再生・東京円卓会議は、幅広い視点から、次代を担う人材の育成について、従来の制度や仕組みにとらわれずに議論していきます。その内容を発信することで、社会全体にも論議を巻き起こし、現状を憂う声なき声にも応えていきます。今後、教育再生・東京円卓会議をますます実りあるように進めていきます。
Q、知事が今やるべきことは、子どもたちの教育の機会均等や、教育を受ける権利をきちんと保障すること、具体的には、子どもの貧困が問題になるなか、教育にかかる経済的な負担の軽減や、全国でもっとも遅れている小中学校の少人数学級の拡大、生徒増に対応した都立高校の新設、特別支援学校を大幅に新設し教室不足を解消すること、すべての都立高校に正規の学校図書館司書を配置することをはじめとする教職員の増配置など、教育条件の整備です。いかがですか。
回答 都として取り組むべきことは、教育条件の整備のみならず、教育内容の改善充実や教員の資質向上、学校と家庭や地域・社会とが連携した取組の充実など、教育に関わる幅広い施策を総合的に講じていくことです。このような考えに基づき、教育の充実を図っています。
以上、知事の答弁を求めるものです。