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2012年第2回定例会 文書質問趣意書 6月18日

大山とも子(新宿区選出)

一、こころの健康政策について

 精神保健・医療・福祉の専門家や、当事者、家族により構成される「こころの健康政策構想会議」が、都立松沢病院を会場に同院長を座長として開かれ、熱い議論をかわして「提言書」をまとめあげ、厚生労働大臣に提出してから、2年がたちました。「提言書」で提起された「こころの健康を守り推進する基本法」の制定を求める100万人署名のとりくみが、いま全国各地でひろがっています。
こうした動きにこたえ、東京都議会においても今年3月、「こころの健康基本法(仮称)の早期制定を求める意見書」を、全会一致で採択しました。

 国の患者調査(2008年10月)によれば、都内の精神疾患患者数は、約31万1千人(入院2万3千人、外来28万8千人)におよび、がんや脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病を上回っています。うつ病や統合失調症などの精神疾患は、だれにでも起こりえる身近な疾患です。
 ところが、日本における「こころの健康政策」は大きく立ち遅れており、精神科医療ではいまだに入院・隔離収容が中心です。患者調査の結果をみても、都内の全入院患者のうち実に2割以上が精神疾患患者です。
しかも、精神科病院における職員配置基準は、「精神科特例」の名の下に、医師数は一般病院の3分の1、看護師数は2分の1という低い水準に抑えられており、手薄な医療看護体制で長期入院がよぎなくされる事態がつづいています。
 また、早期発見・早期支援の対策や、家族支援もきわめて不十分です。精神疾患にたいする、いわれのない偏見・差別もねづよいものがあり、当事者や家族を苦しめています。
 当事者・家族の方々は、こころの健康問題を経験したとき、「どこに相談してよいかわからなかった」、「早期に支援を受けられなかった」、「こころの健康や精神疾患についての正しい知識をもっていなかった」、「夜間や休日に不安をかかえても来てもらえない」、「継続した支援と見守りがなかった」、「支援の必要性が高い人ほど支援が届いていない」、「困ったときにいつでも相談できて、自宅まで来てくれる支援がほしい」、「家族は自分の人生をあきらめるしかない。家族も希望をもって生きていきたい」などの、切実な声をあげています。
 厚生労働省は「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム」のなかで検討を開始しましたが、いまだ具体的方向はしめされていません。
 国の対応を待つという姿勢ではなく、東京都が国に先駆けて、「こころの健康政策」のモデルを都独自に構築し、全国に発信すべきです。この立場から、質問します。

1、「アウトリーチ(訪問支援)チーム」の設置をすすめることについて

「アウトリーチ(訪問支援)」は、利用者にとって馴染みのある環境のもとで、地域の力も活用しながら、保健医療福祉の一体的な支援をおこなう方法です。医療だけでなく、生活全体の支援や家族(介護者)への支援もできます。イギリス、アメリカをはじめ、世界各国で実施され、大きな成果をあげています。
「アウトリーチ(訪問支援)」は、医師、看護師、保健師、精神保健福祉士、臨床心理技術者、作業療法士、薬剤師など、「多職種チーム」でおこなうことが重要です。

Q1 東京都は、総合精神保健福祉センターで、「アウトリーチ支援事業」を昨年度から始めましたが、保健所から支援を要請された「困難ケース」がおもな対象です。このとりくみを、さらに本格的に発展させるとともに、「困難ケース」だけでなく、支援を必要とする人の所に、いつでも、すぐに出向いて対応する「アウトリーチ(訪問支援)チーム」の設置を、人口10万人に1カ所をめやすにすすめることが必要ですが、いかがですか。

回答 地域で暮らしている精神障害者の支援については、区市町村や保健所において、訪問活動を含めた相談支援を実施しています。また、平成23年度から開始したアウトリーチ支援事業において、医療の中断などにより、地域での安定した生活が困難な精神障害者に対しては、精神保健福祉センターの医師、保健師等の多職種の専任チームが、区市町村、保健所等と連携しながら機動的な支援を行っています。さらに、センターでは、事例検討会を実施するなど技術援助を行い、区市町村等関係機関の支援力の向上を図っています。

2、「地域こころの健康支援センター」を身近な地域に整備することについて

Q2 「アウトリーチ(訪問支援)チーム」が常駐する拠点であるとともに、365日24時間体制で当事者や家族(介護者)の相談支援をおこなう、「地域こころの健康支援センター」を整備することも求められます。「地域こころの健康支援センター」の整備をすすめることを提案しますが、いかがですか。

回答 区市町村では、地域活動支i援センターを中心に、精神障害者に対し保健医療に関する情報の提供や助言、障害福祉サービスの利用支援などを行っています。都においても、精神保健福祉センターに、アウトリーチ支援を行うための多職種の専任チームを配置するとともに、センターや保健所において、当事者や家族に対する相談支援を実施しています。また、障害者自立支援法の改正に伴い、平成24年度から地域定着支援事業が創設され、24時間の相談支援を行うことも、その事業に含まれています。

Q3 「地域こころの健康支援センター」および「アウトリーチ(訪問支援)チーム」の交流をおこない、支援の質の向上をはかる「地域こころの健康推進協議会(仮称)」や、「サービス評価委員会」(第三者機関)を設置することも重要ですが、いかがですか。

回答 区市町村では、障害者自立支援法に基づき、福祉、医療、教育又は雇用等に関連する分野の関係者、当事者等からなる自立支援協議会を設け、障害福祉に係る情報を共有し、課題解決に向けた'協議を行っています。都においても、東京都自立支援協議会や東京都障害者施策推進協議会等において関係者等と協議を行うほか、精神保健福祉センターでは区市町村や民間事業者等と共同して事例検討会を実施するなど、関係機関と連携して精神障害者に対する支援の充実を図っています。

3、都と区市の保健師を増やし、保健所を増設・拡充することについて

保健所の保健師は、地域における精神保健の推進、精神疾患患者と家族(介護者)の支援に、大きな役割をはたしてきました。ところが、国の方針に追随して、都も区も保健所の統廃合をすすめてきたために、保健師の活動地域がひろがり、きめ細かい支援ができない事態となっています。
感染症対策、健康危機管理対策など保健所に求められる役割・機能は増える一方であり、保健師は多忙をきわめています。

Q4 地域における精神保健の推進・精神疾患患者と家族(介護者)支援の豊富な経験をもち、家庭訪問による支援をおこなうことができる保健師を増やすことが必要です。

回答 精神保健を含む地域保健対策については、都と区市町村が連携して推進しており、平成19年から平成23年までの5年間で、都と区市町村の保健師の総数は約140名増加しています。また、都では、区市町村の精神保健活動に従事する保健師の専門能力の向上を図るため、保健所や精神保健福祉センターにおいて、訪問活動への助言や専門的研修等を実施しています。

Q5 また、あらためて保健所を増設・拡充すべきです。いかがですか。

回答 「地域保健法」に基づき、都の保健所は、地域保健における広域的・専門的・技術的拠点として、新興感染症や食中毒などの健康危機に対応するとともに市町村への業務支援を行い、市町村の保健センターでは、住民に身近な保健サービスを行っています。こうした役割分担のもと、都の保健所は、市町村や医療機関、地域の様々な機関と連携を図りながら、地域の保健施策を充実・強化しており、増設する考えはありません。

4、早期支援青年期外来「ユースメンタルサポートセンター」を増やすことについて

 青年期は、人の一生の中で、こころの不調を最も体験しやすい時期といわれています。精神疾患はこの時期に多く発症していますが、適切な支援や治療につながらないまま、症状が悪化するケースが少なくありません。早期発見・早期支援が、きわめて重要です。
こうした課題に対応するため、都立松沢病院に、早期支援青年期外来「ユースメンタルサポートセンター松沢」が開設され、自宅や学校へのアウトリーチ(訪問支援)にもとりくむなど、成果をあげています。しかし、きめ細かい支援をおこなうため、受診できるのは、世田谷区および世田谷区に隣接する地域に住む青年(15歳から25歳までの精神病状態が疑われる人)に限定されています。

Q6 都内すべての地域をカバーできるよう、松沢病院以外の都立病院・公社病院にも早期支援青年期外来「ユースサポートセンター」を開設するとともに、民間病院での開設を支援する必要があります。このことについて、福祉保健局は、一般診療医師を対象とした精神疾患や精神保健医療の法制度などに関する研修や、一般診療科医師と精神科医師による合同症例検討会を実施していることをもって、早期に専門的医療につなげるとしています。もちろん、こうした事業は重要なことですから、拡充する必要があります。同時に、「ユースメンタルサポートセンター松沢」の実践を広め、世田谷区及び周辺の地域以外の対象者にも対応できるようにすべきです。松沢病院ではすでに実施して成果を上げているのですから、青年期への対応が身近なところでできるよう、松沢病院以外の都立・公社病院での開設と民間病院での開設支援に踏み出すべきですが、どうですか。

回答 若年者の精神疾患の予防や、悪化防止については、精神保健福祉センターや保健所において、本人及び家族を対象とした思春期・青年期相談を実施し、早期に医療機関など必要な支援機関につながるよう取り組んでいます。また、都は、精神疾患を早期に発見し、症状に応じた適切な治療につなげるため、平成23年度から地域ごとに、一般診療科医師を対象として、精神疾患や精神保健医療の法制度などに関する研修を行うとともに、一般診療科医師と精神科医師による合同症例検討会を実施しており、今後もこうした地域での取組を進めていきます。

5、学校での精神保健教育を抜本的に強化することについて

Q7 精神疾患の予防や早期発見を促進するとともに、偏見・差別をなくすため、児童生徒、教職員、保護者にたいする精神保健教育を、抜本的に強化する必要があります。
都立松沢病院の医師、看護師、精神保健福祉士は、三重県津市内の中学3年生にたいし、精神疾患にかんする実験的授業を実施した経験があります。この経験をもとに、教材も開発されています。都内の中学校や高校での実践にふみだすことが急がれますが、いかがですか。

回答 児童生徒は、小・中・高等学校の学習指導要領に基づき、既に保健の授業において、精神機能の発達、心と体の関係、欲求やストレスへの適切な対処方法等の心の健康について学習をしています。また、都は「都立学校における専門医派遣事業」として、精神科医を都立高校に派遣し、担任教諭や養護教諭等に対し、具体的なケースに対する助言を行うほか、生徒、教職員、保護者に対して講演会を実施し、校内連携の援助を行っています。

Q8 その際には、精神障害の当事者や家族の体験を聞く機会をつくることも重要ですが、いかがですか。

回答 学習指導要領に基づく保健指導の場においては、実情に合わせて様々な補助教材の使用、外部i溝師の活用など、効果的な教育を行っており、都立高校では、様々な事例に対応してきた精神科医による講演会を開催しています。

Q9 養護教諭(保健室の先生)の複数配置、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカの配置促進も求められています。見解を求めます。

回答 養護教諭の定数については、国の標準法に基づく都の定数配当基準により適切に配置しています。また、スクールカウンセラーは、平成15年度から中学校の全校配置、平成23年度からは、小学校及び高等学校への配置を大幅に拡大し、平成24年度は小学校327校、中学校631校、高等学校100校に配置するなど、着実に配置校を増やしてきています。さらに、スクールソーシャルワーカーも、事業が開始された平成20年度には16区市での実施でしたが、平成24年度は31区市町で取り組むなど、着実に配置地区が増えています。

6、地域における「こころの診療連携拠点病院」を設置することについて

「がん診療連携拠点病院」「東京都認定がん診療病院」や、「認知症疾患医療センター」と同じような、地域における「こころの診療連携拠点病院」の設置をすすめることも求められています。

Q10 「こころの診療連携拠点病院」は、多職種によるチーム医療や相談支援事業、地域連携担当者会議、事例検討会の実施、精神看護専門看護師やケースマネージャー、精神保健福祉士の配置、早期退院の促進、社会復帰支援室や患者の権利擁護委員会、患者図書室の設置、専門人材養成などを要件とし、必要な財政支援を都独自におこなうことが重要ですが、どうですか。

回答 精神疾患に関する拠点病院の設置等については、その必要性も含め、精神科医療のあり方全体の中で国において議論すべきものと考えます。

 精神科病院への入院時に、人格をきずつけるような処遇をされたことによるトラウマ(心的外傷)が、精神疾患早期に治療を中断する理由のひとつといわれています。また、「東京都の医療施設」調査によれば、精神科病院の平均在院日数は289日にもおよんでいます。「こころの診療連携拠点病院」のとりくみをとおして、こうした事態を打開し、精神科病院および地域における精神科医療全体の質の改善・向上をすすめることが必要です。

Q11 内科等の一般診療科の開業医にたいし、精神疾患の早期発見・早期支援につなげるための、精神科と一般診療科の連携体制整備にむけ、「うつ病」「認知症」だけでなく、統合失調症、発達障害などもふくめた精神保健医療全般にわたる研修を実施する必要があります。さらに、精神科と一般診療科が協働して継続的に診療をおこなう「こころとからだの二人主治医制」の構築も求められています。いかがですか。

回答 精神科と一般診療科の連携を進めるため、都は、平成23年度から地域ごとに、一般診療科医師を対象とした精神疾患や精神保健医療の法制度などに関する研修や、一般診療科医師と精神科医師による合同症例検討会を実施しています。

7、総合病院の精神科への支援を強化することについて

 がん、心疾患、糖尿病をはじめとした身体合併症で入院や手術を必要とする精神疾患患者の受け入れ先がすくなく、緊急の対策が必要です。なかでも、身体合併症による救急医療を必要とする精神疾患患者の受け入れを改善・促進することは、命にかかわる問題です。

Q12 総合病院の精神科は、身体合併症の精神疾患患者を受け入れる重要な役割をもっています。救急病院をはじめとした総合病院の精神科医師の人件費補助の実施など、都として支援を強化することが必要ですが、いかがですか。

回答 都では、身体合併症の精神科患者に対し、迅速かつ適正な身体医療を確保することを目的として、精神科患者身体合併症医療事業を実施し、協力医療機関に対して、診療体制や病床の確保に必要な経費を措置しています。救急病院を始めとした総合病院の精神科医師の人件費については、本来、診療報酬制度の中で措置されるべきものであり、都は国に対し、精神身体合併症患者に対する医療提供体制を一層整備するため、診療報酬の充実を図るよう提案要求しています。

Q13 同時に、都立病院・公社病院における身体合併症の精神疾患患者の受け入れを、抜本的に拡充・強化すべきです。お答えください。

回答 精神科を持っ都立病院及び公社病院では、これまでも地域医療機関と連携した身体合併症患者の受入れを行ってきました。引き続き、総合診療基盤を生かし、身体合併症を持っ精神疾患患者の方への対応を適切に行っていきます。

8、外来と入院をつなぐ「宿泊訓練施設(ホステル)」や「短期宿泊施設(ショートステイハウス)」の整備をすすめる

東京都は、長期入院の精神疾患患者の退院、地域生活移行を促進するため、中部と多摩の総合精神保健福祉センターで実施していた「ホステル」(アパート形式の宿泊訓練)を、アウトリーチ支援事業の実施とひきかえに、昨年度末で廃止してしまいました。

Q14 中部と多摩で実施していた「ホステル」は、これまで大きな成果をあげ、高い評価をうけてきました。ただちに再開するとともに、大幅に増やすことこそ、求められています。

回答 精神保健福祉センターのホステルにっいては、精神障害者の地域への移行支援やグループホーム等の地域生活基盤の整備などが進んできたことから、平成22年度末で廃止したものであり、再開する考えはありません。平成23年度から、センターで全都を対象として実施しているアウトリーチ支援については、これまでに23区と多摩地域の全ての保健所から支援依頼を受けるなど、着実に浸透しています。

Q15 症状が悪化したときに、一時的に宿泊・滞在できる「ショートステイ」は、あまりにもすくなすぎます。緊急時に利用できないことも、大きな問題です。精神障害者ショートステイの整備を促進するとともに、「アウトリーチ(訪問支援)チーム」と連携した都独自の短期宿泊施設「ショートステイハウス(仮称)」を制度化し、身近な地域で、いつでも利用できるようにすることが必要です。いかがですか。

回答 都は、平成23年度から精神保健福祉センターにおけるアウトリーチ支援と緊密に連携して、症状が悪化する前に、速やかに精神障害者を受け入れる短期宿泊事業を、区部及び多摩地域の2か所のセンターで実施しています。短期宿泊事業については、症状悪化を防ぎ、地域生活への復帰が可能となるなど成果が出ていることから、将来的な民間等での実施も見据え、平成24年度、民間事業者を活用したモデル事業を実施していきます。

9、ピアサポーターや「家族支援ワーカー」の養成をはじめ、当事者・家族(介護者)への支援を強化することについて

Q16 精神障害者が地域で生活し、回復をすすめるうえで、当事者活動はきわめて重要です。都として、「ピアサポーター推進事業」を創設し、ピアサポーターの人材養成や活動の場をひろげるための支援を実施すべきですが、いかがですか。

回答 都はこれまでも、精神障害者の退院を促進し、退院後の安定した地域生活を支援するため、都内6か所の地域活動支援センター等でピアサポータ一を育成し、入院患者等に対して地域生活への移行に向けた働きかけを行う等の支援を実施しています。

Q17 家族・介護者支援の専門人材である「家族支援ワーカー(仮称)」を都独自に制度化し、養成にふみだすことも重要です。

回答 精神障害者の家族や介護者に対する支援については、専門的知識が必要であり、現在は、精神障害に関する専門知識を有している保健師や精神保健福祉士など国家資格を有する者が行っています。

Q18 精神障害者が地域で自立して生活するため、就労支援の強化とともに、所得保障・経済的支援の充実は不可欠です。当事者・家族の切実な要望でもあります。すでに杉並区は、精神障害者への福祉手当の支給にふみだしました。都が身体・知的障害者を対象として実施している心身障害者福祉手当を「障害者福祉手当」とし、精神障害者にも対象を拡大すべきです。

回答 都は「障害者の地域移行・安心生活支援3か年プラン」を策定し、グループホームなどの地域居住の場や通所施設などの日中生活の場を重点的に整備するなど、障害者が地域で安心して暮らせるためのサービス基盤の整備を促進しています。また、精神障害者については、その障害の特性から、医療を確保することの重要性を考慮し、低所得者に対して、都独自に精神通院医療の1割の自己負担分を無料としています。手当や年金制度などの所得保障は基本的に国の役割であることから、都はこれまでも他の自治体と連携し、年金制度の改善など障害者の所得保障の充実を国に要望してきており、引き続き国に働きかけていきます。

10、災害時における「こころのケア」体制を整備することについて

 東日本大震災では、避難所等における精神障害者への医療の継続をはじめとした適切な支援の確保が、大きな課題になりました。
 大規模災害時は、災害の恐怖体験、身近な人を亡くしたことによる悲しみ、避難生活のストレスなどにより、精神障害者にかぎらず多数の都民にたいする「こころのケア」が必要となります。
兵庫県では、阪神・淡路大震災を契機として「兵庫県こころのケアセンター」が設置され、被災者や被害者のトラウマ(心的外傷)や、その結果として生じるPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの「こころのケア」にとりくんでいます。

Q19 こうした経験をふまえて、災害時の精神障害者への支援体制、必要な医薬品の確保をふくめた災害時の精神保健医療体制の確立、多数の都民にたいする「こころのケア」体制の整備、災害によるトラウマやPTSDにたいする専門的医療体制の強化などを、早急に具体化することが必要です。見解をうかがいます。

回答 都は、東京都地域防災計画において、災害時には精神障害者・精神疾患患者に対して、都立病院及び民間精神科病院との協力による精神医療を展開することとしています。また、医薬品・医療資器材の確保や、被災住民の心的外傷後ストレス障害(PTSD)をも視野に据えてのメンタルヘルスケア体制整備を図り、被災の状況に即して活動することとしています。

11、「東京都こころの健康政策推進計画」をつくることについて

Q20 すべての都民を対象にした、保健・医療・福祉の総合的な「こころの健康政策推進基本計画(仮称)」、およびその「行動計画」(3カ年程度の実行プログラム)の策定に、全国に先駆けて東京都がふみだすべきです。同時に、計画の推進状況を点検・評価するため、当事者、家族、都民の代表をはじめ、当事者・家族が推薦する精神保健・医療・福祉の専門家等により構成する「東京都こころの健康政策推進協議会(仮称)」を設置する必要があります。いかがですか。

回答 国は、平成25年度から実施される医療計画に記載すべき疾病として、新たに精神疾患を追加し、これも踏まえ、現在、都は東京都保健医療計画の改定作業を進めています。改定後の計画の実施状況については、東京都保健医療計画推進協議会において、評価・検証を行っていく予定です。

12、「こころの健康を守り推進する基本法」の早期制定を、国にたいし強力に要請することについて

 都議会は今年3月、全会派一致で「こころの健康基本法(仮称)の早期制定を求める意見書」を採択し、国会および政府に提出しました。

Q21 東京都としても、こころの健康を国の重要施策と位置づけ、総合的で長期的な政策を実行する「こころの健康を守り推進する基本法」の早期制定を、知事を先頭に、国にたいし強く働きかけることを求めます。

回答 こころの健康に関する法律については、今後とも国の動向を注視してきます。

二、生活保護について

1. 生活保護の増大について

 都内の生活保護受給者は、毎年増加し2010年度は19万5110世帯となり、2000年度の1.9倍に増えています。高齢者世帯が依然として43%以上を占めているのは、年金や医療などの社会保障の貧しさが高齢期の生活を困難にしているからです。
 また、最近の特徴は、世帯に働いている人がいるにも関わらず、生活保護を受給する世帯が増えていることです。2000年と比べると、働いている人がいない世帯の伸びは1.82倍ですが、働いている人がいる世帯は2.38倍にも増えています。
 また、保護開始の理由について、毎年9月中の統計がありますが、解雇等によるものは、2008年が47世帯でしたが、2009年には175世帯、2010年にも134世帯と急増しています。その年齢層も、60歳未満での増加が大きくなっています。
 2009年というのは、アメリカ発の金融危機による景気悪化を理由にした大企業の派遣切り・リストラ、内定取り消しなどが広がり、自公政権のもとでの「構造改革」路線で苦しめられてきた都民のくらしや中小企業の危機もさらに深刻になった時期です。初の「年越し派遣村」に衣食住を求めて五百人もの人たちが集まり、その後も次々と路頭に迷う事態が続いていました。そんな中で、解雇などによる生活保護の開始、また、働いていても生活保護水準以下の収入しかない、ワーキングプアーが増えていったのです。まさに、生活保護が増えたのは、政治の責任と言わなければなりません。
 ところが政府は、生活保護世帯が急増していることをもって、生活保護の給付額引き下げや扶養義務強化の検討の意向を示していますが、上述したように、最近の特徴は雇用の破壊と、働いていても生活保護基準にも満たない収入しかない、ワーキングプアーの急増です。

Q1 労働運動総合研究所は、「最低賃金の引き上げは日本経済再生の第一歩」とし、最低賃金を全国一律で時給1000円に引き上げた場合の経済効果を試算しています。「最低賃金の時給1000円への引き上げによって、約2252万人の労働者の賃金が月平均2万4049円上昇し、全体の賃金支払い総額が年間6兆3728億円増加し、それに伴って内需(家計消費支出)が4兆5601億円増加する。産業連関表を利用して、その清算誘発効果を試算すると、各産業の国内生産が7兆7858億円拡大し、GDPを0.8%押し上げる効果があることがわかった。その結果、約41万人の雇用と7231億円の税収増が期待される。」と報告しています。それにより、「被保護世帯の12.9%は世帯主または世帯員が働いている世帯である。最低賃金を時給1000円に引き上げれば、この人たちを生活保護から解放することができ、それに伴って約3800億円の財政支出削減となる。」と報告しています。
 今やるべきは、国民の懐を温めるこうした積極的な政策です。首都東京の知事が、国に対して上述の立場でものを言うべきですが、どうですか。

回答 最低賃金法では、最低賃金審議会において審議し、最低賃金を答申することとされています。審議に当たっては、地域における労働者の生計費及び賃金、並びに賃金の支払能力を考慮することとし、労働者の生計費を考慮するに当たっては、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとしています。今年度も、こうした点にも配慮しながら見直しが行われていると聞いています。

 知事は、所得保障は国の責任だと言って、東京都は関係がないような言い方をしますが、生活保護の周辺の社会保障、福祉施策がいかに厚いかどうかが、生活保護を増やさない道でもあります。例えば、年金額が少くても、住宅費や交通費、医療費や介護にかかる負担が少なければ、なんとか生活が成り立つ方は、少なくありません。

Q2 子育て世帯への支援では、乳幼児及びこども医療費助成の所得制限の撤廃と高校卒業までへの年齢引き上げが求められます。

回答 都は、乳幼児期は病気にかかりやすく、一方、親の年齢が一般的に若く収入が低いこと、また、小中学校の学齢期は人間形成の核となる重要な時期であることから、子育て推進の一環として、市町村が実施する乳幼児医療費助成事業及び義務教育就学児医療費助成事業に対し、補助を行っているものであり、対象年齢を引き上げることは考えていません。また、所得制限の基準は、国における児童手当に準拠しており、一定の所得制限を設けることは必要と考えています。

Q3 同時に、75歳以上の医療費無料化、65歳〜74歳の医療費助成も必要ですが、いかがですか。

回答 高齢者の医療費負担のあり方については、社会保障制度全体の中で、国の責任で対応すべきものであり、都として新たな医療費助成を実施する考えはありません。

Q4 都として都営住宅入居基準以下の世帯など低所得の世帯やワーキングプアーの若年者に対する住宅補助に踏み出す時です。

回答 家賃補助は、生活保護制度との関係や財政負担のあり方など、多くの課題があることから、都として実施することは考えていません。

2. 扶養義務について

 お笑いタレントの実家の母親が生活保護を受給していたことを自民党議員や一部メディアが問題視したことをきっかけに、政府が生活保護制度の改悪を加速させようとしていることは、問題です。今回のタレントの場合は、自民党議員が「不正受給」と指摘するような法律違反は、ありません。母親が病気で働くことができなくなり、息子も当時の収入では扶養できなかったため、受給が認められました。収入が増えてから一定額の仕送りもしていました。いずれも福祉事務所と相談しながら行ってきたものです。

Q5 民法は、祖父母、父母、子、孫など直系血族と兄弟姉妹に扶養義務を定めていますが、成人になったこの親への扶養義務は、無理のない範囲で行うというものです。扶養内容や範囲は、当事者同士が実情に応じて話し合いで決めるのが普通です。都内福祉事務所の対応もそのようにしているという認識でいいですね。

回答 扶養義務にっいて、生活保護法では、民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、全てこの法律に優先して行われるものとするとされています。また、生活保護の決定・実施に関する事務は法定受託事務であり、その実施要領に当たる厚生労働省事務次官通知では、民法上の扶養義務は法律上の義務であるが、これを直ちに法律に訴えて法律上の問題として取り運ぶことは扶養の性質上なるべく避iけることが望ましいので、努めて当事者間における話し合いによって解決し、円満裡に履行することを本旨として取り扱うこととされています。都内福祉事務所においては、これらの考え方にのっとって生活保護行政を行っています。

Q6 現在も生活保護申請の際、申請を受けた福祉事務所は扶養義務のある親族に扶養意思の有無を確認しています。親族に生活保護を申請したことを知られるのを嫌がったり、「これまでも借金で迷惑をかけた親兄弟に扶養調査までされるなら」など、今でも申請しない人が少なくありません。このような実態をどう認識していますか。

回答 生活保護法による保護の実施要領の取扱いにっいて定めた厚生労働省社会・援護局保護課長通知では、扶養義務者の状況や援助の可能性について聴取すること自体は申請権の侵害に当たるものではないが、「扶養義務者と相談してからではないと申請を受け付けない」などの対応は申請権の侵害に当たるおそれがある、としています。都内福祉事務所においては、この通知に基づき適切に対応していると考えます。

 ところが、小宮山洋子厚労相が、扶養できないことの「証明義務」を生活保護受給の事実上の条件にする法改定の検討を表明したことは重大です。こんな条件をつければ、保護が必要な人がますます申請をためらい排除されます。かりに無理に扶養をしたとしても、扶養される側もする側も「共倒れ」になる危険さえあります。

Q7 都からも国に対して、「証明義務」を生活保護受給の条件にしてはならないことを、意見として上げるべきですが、どうですか。

回答 平成24年7月5日に厚生労働省が発表した「生活支i援戦略」中間まとめでは、生活保護制度の見直しの一つとして、「保護を必要とする人が受けられなくなることのないよう留意しつつ、扶養可能な扶養義務者には、必要に応じて保護費の返還を求めることも含め、適切に扶養義務を果たしてもらうための仕組みを検討する」とされており、都はこの検討状況を注視していきます。

 人気が出てきたタレントの親の扶養という非常に特殊なケースは、あくまで道義的な問題であり、制度の欠陥ではありません。問題をすりかえて改悪の口実にするようなことはやってはならないことです。
 ところが、現状は逆行しています。弁護士やNPO関係者でつくっている「生活保護問題対策全国会議」が、お笑いタレントのマスコミ報道以降、「生活保護制度と制度利用者全体に対する大バッシングが起こってい」るので、まずは生活保護受給者や保護が必要な方が深く傷つき不安にさいなまれているであろうと、6月9日に「生活保護"緊急"相談ダイヤル」を開催したところ、全国から363件の相談の声が寄せられました。何度かけてもつながらない、という声も多かったということですから、実際はそれ以上かかってきていたと言えます。
 不安の訴えは多く、「親族に扶養を要求され迷惑がかかるのではないか」と「自分は生活保護を受けられないのではないか」がともに42件と多く、「打ち切られるのではないか」「生活保護を受けることに後ろめたさを感じる」など、生活保護が必要な人の足を止めるような状況が明らかになっています。
 「福祉のお陰で命が助かっている。騒がれだして病院の対応も変わった。不正受給者のような目に晒されて病院に行くのも怖い。」「最初から泣いている、生きていちゃいけないのか、死にたい、苦しい、TVを見るのが怖い。」「近所の人に、「受給者はクズ」と言われた。お金のない人は死ぬしかないのか。」「これから申請したいと考えているが、テレビ報道のように別居の子どもたちに迷惑がかかってしまうのか心配。」「どうしようもなくつらい。薬が増え、夜も眠れなくなった。体調悪い。死んでしまいたい。現物支給は差別。」「次長課長の報道以来声が出なくなり、夜も眠れない、食欲も落ちた。」「最近の報道から生活保護に後ろめたさを感じ、病院にも行きづらい。」など、不安から体調まで崩している方もいます。
 福祉事務所の窓口で「働いて生活しなさい」「扶養義務者に援助してもらいなさい」などと言われたなどの訴えもあります。

Q8 このような状況が生じていることを、どう受け止めていますか。

回答 生活保護制度は、生活に困窮する方に健康で文化的な最低限度の生活を保障する最後のセーフティネットであり、都としては、漏給・濫給がないよう、各区市に対する指導・助言を行っています。各福祉事務所においては、制度の趣旨にのっとり、保護が実施されていると考えています。

3. 漏給をなくすことについて

 生活保護でむしろ問題なのは、受ける必要がある方々が受けられていないことです。立川市で孤立死した95歳のお母さんは、介護認定は受けていましたが、介護していた娘さんは「うちの収入は年金だけなので、介護サービスは無理。自分で頑張る。」と近所の人に話していたそうです。

Q9 生活保護を受ける資格がある生活水準の人が実際に受給している割合は、日本の場合、様々な研究ではわずか1〜2割です。厚労省が2007年の国民生活基礎調査をもとに推計した捕捉率は32.1%となっていますが、欧州諸国の7〜8割と比べればはるかに、受給すべき世帯が受給できていない状況です。
 この捕捉率の低さをどう認識し、漏給を防ぐため、どのような努力をしているのですか。

回答 国によって、公的扶助制度は様々であり、単純に比較することはできません。また、ご質問にある推計について、厚生労働省は、本来生活保護を受給できる方のうち実際に受給できる方の割合を意味する、いわゆる「捕捉率」や、申請の意思がありながら生活保護の受給から漏れている要保護世帯、いわゆる漏給を示すものではないとしています。都は、保護の実施要領にのっとって、必要な方々に対し適切な生活保護の適用が行われるよう、会議、研修及び指導検査等を通じて福祉事務所に対する周知・徹底を図っています。

 慶應義塾大学の駒村康平教授が厚労省の審議会の資料として提出された、生活保護の「地域別捕捉率」では、5年ごとに推計値で出しています。東京都は89年は3割を超えていたものの、94年、99年と下がっていて、99年は15%程度でしかありません。

Q10 欧州諸国は、国が責任をもって捕捉率を出し、漏給を防ぐ努力をしています。国に対し、捕捉率の正確な調査を実施するよう求めるとともに、都独自に少なくとも推計を行うなどの努力が必要ではありませんか。

回答 国は、生活保護の現状把握の指標の一つとして、定期的に保護世帯比等を調査・推計し、推計結果の動向を把握していくこととしています。都内福祉事務所においては、制度の趣旨にのっとり、保護が実施されていると考えており、都独自の推計を行うことは考えていません。

Q11 不正受給は正されなければなりません。しかし、そのことによって支援を必要とする人を制度から遠ざけることになってはならないと思いますが、どうですか。

回答 生活保護制度は、生活に困窮する方に健康で文化的な最低限度の生活を保障する最後のセーフティネットであり、都としては、漏給・濫給がないよう、各区市に対する指導・助言を行っています。各福祉事務所においては、制度の趣旨にのっとり、保護が実施されていると考えています。

Q12 厚労省は今年2月23日付で「生活に困窮された方の把握のための関係部局・機関等との連絡・連携体制の強化の徹底について」の通知を、各都道府県知事等にあてて出した。これをうけて、都としてどう対応したのですか。

回答 都は、これまで、電気・ガス・水道各事業者、都市整備局及び国民健康保険所管部に対して、要保護者の把握のための福祉事務所との連絡・連携体制の強化について協力を依頼し、その旨を各福祉事務所に周知してきました。平成24年2月に厚生労働省社会・援護局長通知「生活に困窮された方の把握のための関係部局・機関等との連絡・連携体制の強化の徹底について」が発出された際には、各区市長等に周知するとともに、平成24年3Aに実施した福祉事務所長会議において、各自治体内部で生活困窮者情報を一元的に受け止める体制や、管内のライフライン事業者との具体的な連携体制の構築を図るよう助言しています。

4. 福祉事務所のケースワーカー不足について

 生活保護の急増により福祉事務所のケースワーカー1人が担当するケース数が増加しています。社会福祉法では、1人の担当ケース数の標準は80世帯となっているが、2011年7月現在の担当世帯数は、100ケースを超える自治体が24区市にも登っています。

Q13 ケースワーカーの増員は急がれますが、都としてどう支援していますか。

回答 生活保護現業員については、社会福祉法に標準数が定められており、これに基づき各区市において職員を配置しています。都は、区市に対する指導検査の結果、定数不足により適正な事務処理がなされないと判断した場合、必要な職員配置など、適正な保護の運営実施を確保できる実施体制を構築するよう、文書での助言を行っています。

Q14 人数を増やすと同時に、高い専門性が求められる仕事だけに、質の確保も重要です。ケースワーカーについては、法によって「社会福祉主事でなければならない」となっていますが、都内のケースワーカーのうち、社会福祉主事のケースワーカーは何人でその割合はどの程度になりますか。また、経験年数はどのような分布になっていますか。

回答 都内の生活保護現業員の数は、平成23年7月31H時点で計2,214名となっており、そのうち社会福祉主事は1,406名、63.5パーセントです。また、経験年数1年未満の者の数は546名、24.7パーセントです。

Q15 都として、福祉事務所のケースワーカーの専門性を高めるための支援の強化が必要ではありませんか。

回答 区市では、生活保護現業員の知識や技能を高めるため、OJT研修を実施するとともに、社会福祉主事資格認定研修の受講を促進しています。都は、社会福祉業務に関わる職員としての専門的資質を一層向上させるため、社会福祉法に基づき、新任・現任地区担当員、面接相談員、新任・現任査察指導員等、業務・経験別に福祉事務所職員研修を毎年実施しています。

Q16 ケースワーカーの仕事量も、また相談自体も複雑多岐にわたっているだけに、ケースワークの仕事を側面から支援することへの支援は東京都ができることではないでしょうか。就労支援員や精神保健福祉士の配置などへの支援をさらに拡充するべきですが、どうですか。

回答 都は、生活保護現業員の仕事に資するため、保護の決定・実施や自立支援等に関するマニュアルの提供や専門的助言を行っています。また、国は、就労支援員や健康管理支援員などの福祉事務所への配置について財政的措置を講じており、都は、これらの専門支援員の業務に関する研修や事例検討会を実施するとともに、こうした専門的な知識や経験を有する者の配置を更に進めるよう、助言しています。

以上