「中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)の 受験者を対象とする 実施状況調査を求める要望」への都教委の回答について
★記者会見で訴える 英スピ議連の都議会議員と市民団体の皆さん(2024.2.9)
「中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)の 受験者を対象とする
実施状況調査を求める要望」への都教委の回答について
2024年2月9日
入試改革を考える会
都立高校入試 英語スピーキングテストに反対する保護者の会
都立高校入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める会
中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)の都立高等学校の
入学者選抜への活用を中止するための都議会議員連盟
上記4団体は昨年12月27日、浜佳葉子・東京都教育長あてに「中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)の受験者を対象とする実施状況調査を求める要望書」を提出しました。私たちが行ったESAT-J実施状況調査(任意のアンケート調査)結果について、都教育委員会が「会場などがわからないので確認のしようがない」と述べているため、試験会場名を提供し、その会場で受験した生徒全員を対象とした調査を求めたものです。
私たちのアンケート調査では、「まわりの生徒の解答する声が聞こえ(部分的にでも)何を言っているかわかった」との生徒や保護者の回答が86件に上るなど、ESAT-Jが公正・公平な試験環境でなかったことが明らかになりました。しかし都教委は、「議連等のアンケートは、試験会場や受験者が特定できず、事実確認が困難」(*1)と議会で答弁し、マスコミにも「会場などが分からないので確認のしようがない」(*2)と述べ、結果を都立高校入試に活用すると表明しました。
そのため、テストの成績の有効性に影響する深刻な問題を指摘する回答のあった会場の名称とその内容を都教委に提供し、事実確認のための調査と、その方法及び結果の公表を求めたものです(回答期限2024年1月19日)。会場名等を都教委に伝えたのは55会場です(要望書の詳細は資料参照)。
12月27日に要望書を受け取った教育庁グローバル人材育成部の担当課長は、「検討し対応する」と述べました。しかし回答期限がきても連絡がないため、こちらから連絡をとり、1月30日に4団体参加のもとで面談し、回答を聞きました。
1、東京都教育委員会の回答
都教委からの回答は、以下のような内容でした。
- 生徒には、困ったことがあったら、試験監督や係員、試験後は都教委に申し出るように伝えている。何か問題があれば個別に申し出てほしい。
- 会場には都教委職員を派遣しており、その報告から、また事業者の報告から、テストは適切に実施されたと認識している。
- 多くの受験生が同じ場所で受験している中で、特定の解答を聞き分けて、それをまねることは、現実的とは考えられない。
- したがって、議連等から提供された会場別の調査は行わない。
2、都教委の回答に対する4団体の見解
(1)会場名の提供は、「会場名が分からないので確認しようがない」という都教委の答弁を受けてのもの
私たちは、都教委が「会場名が分からないので確認のしようがない」というので、会場名を都教委に提供したのです。それでも調査をしないというのは、余りにも不誠実で、入試を公平・公正に行うという都教委の責任を放棄したものに他なりません。
都教委の回答は、会場別の調査をしない理由にならないのは後述の通りです。
(2)生徒・保護者が個別に申し出れば対応するというのは、問題のすり替え
都教委は生徒が申し出れば対応する、窓口があると主張しています。
しかし実施状況調査では、「スタートのボタンを遅く押すことで、他の人の意見を聞いてから話せてしまう」、「10 秒くらい待ってから始めたが、周りの声が丸聞こえ。とても簡単に解けた」など、カンニングができる環境があったことを生徒が答えています。都教委が設置した窓口に、生徒が名乗って連絡をすることは、カンニングを疑われたり再試験を受けるように言われたりするリスクを伴うことになり、現実的ではありません。生徒は匿名性があるアンケートだから答えてくれたのです。
そもそも私たちが指摘している試験の公正性・公平性にかかわる問題は、生徒に個別に対応して解決する性質のものではなく、「個別に申し出れば対応する」というのは、問題のすり替えです。
(3)会場にいた都教委職員等には、まわりの音が生徒にどう聞こえたかはわからない
まわりの音がどう聞こえたかなどは、イヤホンとイヤーマフをつけて試験を受けた生徒にしかわからないことです。たとえ同じ空間にいたとしても、試験を受けていない都教委職員や試験監督にはわかりません。
生徒に聞くことなく、会場に派遣した都教委職員の報告から試験は適切に行われたと判断するのは、不適切です。
(4)都教委の「考え」で生徒の証言を否定する非科学的態度は問題
都教委はこの間、繰り返し「多くの受験生が同じ場所で受験している中で、特定の解答を聞き分けて、それをまねることは、現実的とは考えられない」と答えています。
しかし、少しでも聞こえれば解答のヒントになり得ると専門家が指摘しており、またESAT-Jには、1語(one word)で正解になる問題もあるのです。
これらの状況のもと、実際に(2)で触れたような生徒の証言があるなかで、「現実的とは考えられない」のは、都教委の「考え」、願望に過ぎず、生徒自身への調査もせずに、それを証明したことにはなりません。
(5)4団体の調査だけでなく、学校現場からも公正・公平を疑問視する声が
公正・公平を疑問視する声は、他の団体にも届いています。
例えば、東京教育連絡会も教員に対して実施状況調査をおこない、スピーキングテスト当日や後日に、生徒や保護者からトラブルや困ったことなどの報告がありましたかという質問に、74人の方が回答しています。
その中で、実施中に周りの音声や回答が聞こえてしまう、もしくは周りが回答を真似していたと答えた人は17人、イヤーマフが合わない、画面が変わらない、音声を認識しないなど機器のトラブルは25人にのぼりました。「試験中、他の人の声も録音された」「テスト音声の録音ができず、試験監督を呼んだが、問題自体は進んでいるため対応できず」など、テストの有効性を疑わざるを得ない声がここでも寄せられています。
(6)ESAT-Jの入試活用は不適切
都教委の回答は申し入れに対して論理に欠けるとともに、あまりに不誠実であり、その場しのぎの回答で逃れようとする卑怯な態度と言われても仕方ありません。
本来入試は厳正に行われ、なによりも公平・公正さが保障されなければならないものです。音漏れなどがあった会場の受験者全員に再度調査もせず、テストは適正に行われたとは到底言えません。
改めて、今年度のESAT-Jの入試活用は中止することを求めるものです。
以 上
*1: 都議会本会議での答弁(2023年12月12、13日)
*2: 朝日新聞2023年12月6日付(ネット配信は12月5日)
- 記者会見文書(PDF)